ほんとうのしあわせ

「なぁ優太、しあわせってなんやろな?」

なんてこともない何気ない昼休み、教室の椅子にもたれかかるように浮かしながら声をかける。

「急にどうした?圭介変なもんでも食ったんか?てか知るかぁボケ。俺らまだ高一よ、ピッチピッチの若もん!彼女もおらん俺らよ?」

急に何をほざいとるんやと思いながら消しカスを投げる優太。

「いやぁこないだな?朝読あるやん?それで読んでその本がな結構深くてさぁ、、、」

といいながら黒革の鞄からひとつの文庫本を出す。

「銀河鉄道の夜?あれか、メーテルとか言う金髪の美人なねぇちゃん出てくるやつ」

優太はなかなか本を読まないので出された本が全く分からず適当に答える。

「それはスリーナインな。これは宮沢賢治の本!亡くなる前最後の本で遺作ってわけよ。」

なんでやねんとツッコミを入れる圭介。

「あぁ、宮沢賢治ね。クラムボンやっけ?小学生の教科書に乗ってた人ね。」

なるほどと手振りをする。

「そうそれや!これがまたおもろいのよ。」

「いや、おもろいのはわかったけど、どうおもろいんよ。」

「お、聞いてくれるか!」

嬉しそうに立って目を輝かせる圭介。

「立たんでええから、話してくれや」

「おけおけ。ほんなら話そか。まぁ本題に入りたいからざっくり説明すると二人の少年がいた訳よ。まぁ友達の関係で、でもそのうちの一人、ジョバンニっていう子なんやけどその子が川で溺れてしまってそれを助けようともう一人カンパネルラ川に飛び込んでなんかは分からんけど自分は亡くなってしまうんよ。」

身振り手振りをしながら圭介は話す。

「ほんで死ぬ人が乗る銀河鉄道に乗るねんけどジョバンニも乗ってしまうんよ。」

「生きてるのに!?」

優太がわりこんで反応する。

「まぁそうなんやけどそこの謎はまぁ本題とは関係ないから置いとくわ。」

右から左にものを運ぶような身振りをして話を続ける。

「銀河鉄道に二人は乗って色んな死んだ人を見ていくわけよ。カンパネルラは死んだことわかってるから乗ってきた人がなくなってることは知ってる。対してジョバンニはそんなことは知らない。」

真剣なまなざしで優太にも分かりやすく説明をする。

「ここまでは大丈夫やな?色んな人あって色んな死に方、障害の終え方を見てカンパネルラはこう言うた。『おっかさんは僕を許してくださるだろうか』ってな、これがまた深いセリフでな」

優太は聞き入るように頷きで反応している。

「これってカンパネルラからしたら友達を助けていいことを最後にしてるから許して欲しいって願ってる。けどおっかさん視点から見てみ、堪ったもんじゃないやろ」

「確かにそうやな」

うん、うん。と納得するように頷く。

「最後にいいことをして死ぬのなら他の生きていく人は許してくれるなんて自分のエゴでしかないわけよ。これって多分作者の宮沢賢治も許して欲しいって死ぬ前に考えたことなんかもしれん、この時の心情は死のうと思ったことが無いから俺にはわからん」

優太はほぇ〜と口を開け呆気に取られている。

「まぁ他人の気持ちなんぞ理解しようにも理解はできひんからな、寄り添うことはできたとしてもや」

遠くを見るように語る圭介。

「そこでや!”ほんとうのしあわせ”ってなんやろ?って話よ!」

パンッと手を合わせて声を荒らげる圭介。

「うぉ、びっくりしたぁ。まぁ確かにな。圭介はどう考えてるんや?」

「わからん。」

ズコーッと椅子から転げ落ちる優太。

「わからんのかい!まぁだから聞いてるって話やな。」

「しょうゆこと。」

「まぁ俺の考えとしてはよ。俺も結婚もしてへんしましてや、彼女もできたこともあらへん。大人になってみないとわからんかも知らへん」

今度は圭介が聞き入るように頷く。

「でもこれだけはいえる。」

「なんや」

「お前と友達で互いに生きてて愚痴も嫌味も言い合えるってこと。これに気付けたことは“ほんとうのしあわせ”のひとつなんかもな」

少し照れくさそうに鼻を擦りながら話す優太。

「くさいなぁ」

「なんやと!?しばいたろか。人がせっかくええこというてるのに。」

殴る振りをする優太に対し、止めようとする圭介。

「まあ、優太が思ってることは俺も同じや。あんがとさんなんか嬉しいわ。」

二人の間に気まづい空気と沈黙が流れる。それを掻払うかのように

「こっちのセリフじゃ、アホ。」

と言いながらも右手を差し出す。

「まぁしあわせやな俺たち」

「やな、生きてるだけでまるもうけなんかもしれへんな」

圭介もそれに応えるかのように右手を差し出すのであった。

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短編集 アルタイル @Altair0614

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