第17話

この日、シゲルとあきのは会社に戻って来ませんでした。


その代わり夜になると、

シゲルから主人へ恐怖としか呼べないメールが送られて来ました。


【あと3日以内にA社の倉庫内にあるS社の全ての荷物を運び出せ。

さもなければ雨でもずぶ濡れでも壊れても関係ない、パソコンでも何でも外へ放り出す】


主人はシゲルへ電話をし、スピーカーにしてもらうと私も側で静かに話しを聞きました。


「こうなったのは全てお前の嫁のせいだ!これまで何十年も上手いことやってきたのに、お前の嫁が口出して俺とあきのちゃんを侮辱した!

今すぐ嫁と別れるなら考えてやってもいい。その代わりこれからは親の言う事を全て聞け!口を出すな!分かったか!」


「俺の言う事が聞けないのなら後3日以内に出て行け!それまでは会社の鍵は土日も開けておいてやる。

A社に置いてあるS社の在庫商品は全てA社で買い取るから置いていけ。

もし許可していない荷物を残した場合は1点につき月1万の賃貸料を取る。」


「それと。まだまだ計画は始まったばかりだからな」


こんなホラーなセリフを、シゲルは旅行の計画でも語るかの様に、電話の向こうで笑い声を含めとても愉快そうに話していました。


しかし、A社がある建物の賃貸契約者は主人でした。


〇コムしてくださいね〜と昔長嶋さんが言っていた建物の警備会社も主人が契約をしていました。


次の日すぐに家主に電話をして賃貸契約を確認したところ、

「2ヶ月前にお父さんから、『息子が新しく広い倉庫を買ってそこへ引っ越す事になったから4月からはA社のみで賃貸させてもらう』と言われて、すでに契約を書き換えたよ。」

と言われました。


家主はシゲルの古くからの友人でした。


新しい契約書をFAXして送ってもらうと、そこには書いた覚えの無い賃貸契約解除書に主人のサインと、

新しい契約主にはシゲルの名前がありました。


「これって私文書偽造ですよね!まだ出ていく予定ではありませんから取り消して下さい。」


家主に再度連絡を取って賃貸契約解除の訂正を申し入れましたが


「お父さんには昔から借りがあるから、後は親子で話をしてください。あと、返金した敷金はお父さんから息子へ渡すと言っていたので受け取っておいてください」そう言われると電話を切られました。


「鍵まで無断に取り替えられて、

これでは不法占拠と一緒だよ。

警備会社は?」そう言って主人に警備会社へ連絡を取らせてみると、


「S社様は来月お引越しされるとかで、ひと月前に解約されましたよね?担当者が伺って社長様の解約のサインもいただいておりますが…」


サインしたの?と主人に聞くと、

確かにひと月前に安田さんが警備会社の鍵を貸してくれと受け取りに来て、「契約更新月だからこれにサインが欲しいそうです」とサインをさせられた覚えがあると…


お前っ…なんて事を。。

鬱病寸前の相手でも関係ねー!

サインする時は隅から隅まで気を付けて文章読まんかボケェ!!と、

ポンコツを発揮した夫を責め立てそうになりましたが、

この時はそんな時間の余裕さえもありませんでした。


警備会社も頼れなくなり時間も迫っている中、

突然主人の携帯へS社とA社が長年契約している社労士の女性からの電話が鳴りました。


「お父様との仲が拗れた様ですので、来年度からのS社との契約更新は辞退させていただきます」突然の一方的な解約報告でした。


「そんな、来年度って来月には労働保険や社会保険料の書類提出日があるじゃないですか。その仕事はどうするんですか?」


「それは本日全ての資料を郵送でそちらへお戻ししましたので、社長が直接労働局等へ出向いて行って下さい」そう言うと電話が切られました。


シゲルの言っていた計画がどんどん襲いかかってきました。


そもそも引っ越せと言われても、新しい倉庫の引き渡しまではまだ3ヶ月もある。


ダメ元で売主の不動産屋さんへ事情を話し、引き渡し前に荷物を搬入させてもらえないか話をしました。


まだお金も払う前でこんな失礼な申し出にも関わらず、売主の方は快く二つ返事で受け入れてくれました。


こんな追い詰められた中で、我々の助けになる人がいただけで涙があふれ出ました。

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