第15話

それからしばらくの間、シゲルとあきのは気味が悪いほど大人しくなりました。


安田さんに様子を聞いても、

「いや、真面目に引き継ぎ作業もやっているよ!もう大丈夫だと思う」と言われ、主人も私も少し安心した所でした。


数週間後の金曜日。

主人が1人で仕事をしていると、突然夜7時にシゲルがS社に訪れました。


主人の顔を見るや否や、シゲルは号泣したそうです。


「今日肺がんの定期検査があって、新しく反対の肺に癌が出来ていると言われた。

前に手術した方の肺は完治したって言われたばっかりだったのに…」

そう言って、検査結果の紙を出し泣いていたそうです。


主人はこの6年前に

「癌になっちゃった。。ごめんね、ごめんね」と、突然会社に訪れ泣く母を思い出しシゲルにその姿を重ねました。


12月8日。

シゲルが訪れたこの日は、

母の命日でした。


「生きる活力が欲しいから、、A社の代表を俺に戻してくれ。頼む!この通りだ!」と泣いて懇願する父の姿を見て、


主人はその場でシゲルから手渡された書類にサインをしてA社の代表を譲りました。


その際、あきのへの改善条件は必ずシゲルが遂行する事、これ以上は絶対に嘘を言ったり裏切らないでくれと約束を交わしたそうです。


書類まで事前に用意されていた事も気になり、その場で代表を代わるなんて主人の軽はずみな行動じゃないか?と私も話しましたが


主人の部屋には防犯カメラがあり、いざとなればこの映像と録音が証拠に出来るからと

シゲルにもカメラと録音の事は伝え、主人なりに考えた末にサインをしたそうです。


この頃、主人の体重は夏から5キロ以上減少しており

精神的にも限界だったのだと思います。


1週間後。

「海が見たい、予約したから行こう。」と、主人から突然

予約済み航空チケットの写真が送られてきました。

日程を確認すると。


沖縄行き、日帰り・・・


飛行機に乗って?日帰りで沖縄。


コイツは。完全に病んでいる!!

そう確信した私は、沖縄に付き合いました。

日帰りで!笑


沖縄行きの朝、平日だったので子供達は学校でした。


「チリちゃんの散歩とゴハンだけよろしくね!2人のご飯は冷蔵庫ね!」子供達と朝に会話をし、

子供達に頼まれた沖縄土産をしこたま買って、夜には帰って来ました。

日帰りなので!笑


そんな時、年明け早々の1月2日。

S社とA社がまとまる大きな倉庫が売りに出されていました。


これまで両社とも賃貸でしたが、2社をまとめるのであれば支払いローンも2社分の賃貸を払うより安いくらいでした。


「ここに決めよう!」すぐに頭金を払い契約へと話を進めました。


購入予定の倉庫は元は大きな陶器屋さんでしたが、その後不動産屋さんに購入され、


私達の購入時は売主の不動産屋さんが木材や建築器具などの資材置き場として使用されていました。


倉庫内はもちろん、事務所から廊下まで全てのスペースにぎっしり資材が詰まっている状態でした。


倉庫内は床が抜けたり柱が壊れている箇所もあり、

そのまま売主の不動産屋さんに修繕工事を依頼して、早くとも半年後の6月に引渡しが出来る事になりました。


半年あればA社との合併準備も出来るし、引っ越しも4月・5月の繁忙期を過ぎているので余裕をもって出来ると考えました。


ただ、A社の代表に復帰して生きる活力を取り戻したいシゲルはまだ吸収合併に反対する可能性もあったので、

しばらく倉庫の場所を教えるのは伏せて番頭の安田さんにも口止めをお願いしていました。

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