盲目だった俺の彼女がこんなに可愛いなんて聞いてない
田中又雄
第1話
俺の名前は平原陽太。
生まれてからずっと、目が見えない。
いや、正確に言うと、完全に真っ暗というわけじゃない。
光の強弱がぼんやりとわかる程度で、明るい場所にいると、何かぼやけた白っぽい霧みたいなものが広がっている感じだ。
でも、それだけ。
色も形も、何もわからない。
医者からは「先天性視覚障害」って診断された。
両親は俺が生まれた時、相当ショックだったらしいけど、俺自身はこれが普通だから、最初はそんなに気にしていなかった。
けど、幼稚園の頃から、それが変わった。
みんなが遊んでいる声が聞こえるけど、盲目の俺はその輪に入ることができず、一人で座っているしかなかった。
いつも杖をついて歩いてるし、幼稚園の中でも、完全に浮いた存在であることはすぐにわかった。
ボールが飛んでくる音がしても、どこから来るかわからないから避けられない。
友達が「陽太、こっち来て!」って呼んでも、方向がわからない。
最初はみんな優しかったけど、すぐに変わった。
「陽太は目が見えないから、遊べないよ」
「目が見えないからボール遊びもできないもん!」と言われるようになった。
悪意というより、純粋な事実を突きつけられた。
それから大きくなっていき、自分の居場所がだんだんなくなる中、ある時園庭で転んで泥だらけになった時、周りの子供たちが笑い声を上げた。
あの笑い声は、今でも耳に残っている。
先生が叱ってくれたけど、それ以来、俺は幼稚園に行くのが怖くなった。
行きたくなくて、家に閉じこもって、母の膝に抱かれて過ごす日が増えた。
小学校に入っても、状況は変わらなかった。
授業で黒板が見えないから、耳で聞きながら、何とか点字などを使って文字を書いたりしていた。
休み時間に、クラスメートが俺の周りを囲んで、「目が見えないってどんな感じ?」「暗い部屋にいるみたい?」って好奇心から質問してくるのはまだいい。
でも、すぐにそれが次第にいじめに変わった。
「陽太、こっちにボール!」って言いながら、わざと俺の頭にぶつけてくる。
転んで泣くと、「目が見えない奴が学校来るなよ」って言われる。
俺は反論できなかった。
ただ、黙って耐えるだけ。
そんな日々が続いて、俺は不登校気味になった。
小学校の高学年になると、ほとんど学校に行かなくなった。
家でラジオを聞いたり、母が読んでくれる本を聞いたりするだけ。
友達なんて一人もいなかった。
世界は俺にとって、音と匂いと触感だけの狭いものだった。
時々、窓から入る風の感触が唯一の楽しみだったけど、それさえも、俺の人生がこれで終わるんじゃないかと思わせるほど、虚しかった。
中学に上がる頃、親が決断した。
地元から離れた街に引っ越すことになった。
新しい環境でやり直せば、きっと良くなるって。
俺は半信半疑だったけど、拒否する気力もなかった。
新しく通う中学は、特別支援のクラスがあるところで、先生も親切だった。
いじめられることはなくなった。
みんな俺を避けるようにしていたけど、それはそれで楽だった。
心を閉ざして、授業を聞くだけの日々。
友達はできなかった。
休み時間は一人で机に突っ伏して、時間を潰す。
退屈で、味気ない毎日だった。
そんなある日、変わった。
授業の後、クラスの女子が俺の席に近づいてきた。
足音が軽やかで、少し甘い匂いがした。
「平原くん、こんにちは。白野雪華です」
彼女の声は柔らかくて、優しかった。
女子に話しかけられることなんて初めてで、俺はびっくりして、頷くしかなかった。
彼女は隣の席ということもあり、毎日話しかけてくるようになった。
最初は天気の話とか、授業の話。
でも、だんだん深い話になる。
「平原くん、目が見えないって大変だよね。でも、他の人より感覚が鋭かったりするのかな?それってすごいことだよね」
彼女は俺の障害をからかうんじゃなく、純粋に興味を持って聞いてくれた。
それでも、どういうつもりかわからなくて、距離を置きながら話していたが、それでも俺は少しずつ、心を開いていった。
それから、彼女と行動するようになった。
昼休みに一緒に弁当を食べたり、放課後に校庭を散歩したり。
彼女は俺の腕を取って導いてくれるんだけど、その手が温かくて、安心した。
俺はもちろん、友達として接しているつもりだった。
だって、彼女はどうやらモテるらしいから。
だけどそんなある日突然、変わった。
放課後の教室で、彼女が俺の顔を両手で包み込んだ。
「陽太くん、好きだよ」って囁いて、唇を重ねてきた。
柔らかくて、甘いキス。
俺は固まって、言葉が出なかった。
恋愛なんて無理だと思っていた。
自分なんか、相手を不幸にするだけだって。
でも、彼女は本気だった。
「私は陽太くんの優しさが好き。付き合って」って。少し抵抗があったけど、彼女の真剣さに負けて、頷いた。
それからは、楽しい日々が続いた。
休日はデートで公園を歩いたり、彼女が景色を説明してくれたり。
彼女の声で、世界が少しずつ広がっていく感じだった。
彼女についても少しずつ理解できるようになっていった。
頭が良くて、優しくて、身長はやや高めだって周りから聞いた。
胸が少し大きめで、スタイルがいいらしいけど、俺には触感でしかわからない。
でも、それで十分だった。
彼女がいれば、俺の暗闇は少し明るくなった。
そうして、同じ高校に行って、2人でたくさん思い出作って、喧嘩を一度もすることもなく卒業して、そして大学に入った頃。
かかりつけの医者から、連絡が来た。
「最先端の再生医療で、視力を回復できる手術がある。成功率は高いよ」と言われた。
俺は少しだけ迷った。
もちろん、目が見えたら良いななんて昔から思っていたことだった。
それでも目に見えるからこそ、嫌なことも増えるだろうと思っていた。
けど、雪華の励ましもあって、受けることにした。
手術の日、緊張で手が震えた。
麻酔が効いて、意識が遠のく中、俺は祈った。目が見えたら、どんな世界なんだろう。
結果…手術は成功した。
目を開けた瞬間、光が洪水のように流れ込んできた。
最初は眩しすぎて、涙が出た。
でも、徐々に慣れてくると、世界が輝いているように見えた。
病室の白い壁、窓から差し込む青い空、緑の木々。
色って、こんなに美しいのか。
鏡を見て、自分の顔に少しがっかりした。
平均的な顔立ち、平均的な身長。
何となく想像通りだったけど、それでもいい。
いろんなものに感動しまくっていた。
花の形、雲の動き、人の表情。
すべてが新鮮で、俺はベッドの上で興奮を抑えきれなかった。
すると、病室のドアが開いた。
入ってきたのは、雪華だった。
彼女の姿を、初めて見た。
長い黒髪がサラサラと揺れ、大きな瞳が優しく微笑んでいる。
肌は白くて、頰が少し赤らんでいる。
身長は俺より少し高めで、スタイルが抜群。
胸のラインが優雅で、全体がまるで絵本から出てきたような美少女。
俺は言葉を失った。
こんなに可愛いなんて、聞いてない。
彼女は俺のベッドに近づいて、手を握った。
「陽太くん、目が見えるようになったんだね。おめでとう」って。
俺はただ、頷くしかなかった。
心の中で、叫んでいた。
俺の彼女、こんなに可愛いなんて…聞いてない。
盲目だった俺の彼女がこんなに可愛いなんて聞いてない 田中又雄 @tanakamatao01
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