灯を運ぶ者

@DOOKS

第1話

序章 忘却の神話


「世界は、すべてを覚えすぎた。」


世界がまだ、名前を必要としていなかった頃。

人はすべてを覚えていた。


死の瞬間。

裏切りの表情。

自らが犯した、取り返しのつかない選択。


それらは積み重なり、

世界は悲嘆の重さで、軋み始めた。


そこで神は、光を創った。


光は、記憶を喰らった。

人々はそれを「灯」と呼び、

救いとして讃えた。


だが神は知っていた。


——この光は、

いずれ誰かを“空っぽ”にする、と。


だから神は、

自ら最初の運ぶ者となった。


そして、壊れた。


それ以降、

運ぶ者は、人から選ばれるようになった。


選ばれるのは、

すでに多くを失った者だった。

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