第六章:悲しみの先に

玲央を失ってから数週間。春の毎日は、まるで色を失った世界を歩いているようだった。 教室の玲央のいない席はひどく寂しく、放課後も誰とも話せず、静かにノートを開いて時 間を過ごすだけだった。ある日 、春は玲央と一緒に解いた数学のノートを手に取り、机の上でそっと開く。

「ここ、玲央が教えてくれたんだよな...」 指先が文字をなぞると、胸にじんわり温かいものが広がる。 春は初めて、自分の中に小さな決意が芽生えるのを感じた。

「玲央の分まで、前を向かなくちゃ...」

次の日、教室で環奈がからかい半分に声をかけてきた。

「春、また一人で泣いてるの?」 以前の春なら逃げていたかもしれない。しかし今は違った。

春は深呼吸し、落ち着いた声で言った。

「もう泣かない。玲央もきっと、笑っていてほしいって思うから」

環奈は少し驚いた顔をしたまま、言葉を失った。春は小さく微笑み、静かに席に座り直す。

放課後、春は一人で校庭に出た。風が頬を撫で、木々の葉がささやく音が心地よく響く。

「玲央... ありがとう。楽しかった日々を、忘れない」

春の目には涙が浮かぶが、笑顔もあった。悲しみは完全には消えない。しかし、その痛み を胸に抱きながらも歩き続ける力が、少しずつ芽生えていた。

心の奥で、玲央の声が聞こえるような気がした。

「春、前を向けよ」

春は小さくうなずき、夕日に染まる校庭を一歩ずつ歩き出す。玲央との思い出が、春を支 える光となり、これからの未来を少しずつ照らしていくのだった。

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