れいとうこ

@yorudaisuki

第1話

あれは小学五年生の出来事、台風が過ぎ去り雲一つない秋晴れの朝、母が父の名前を叫びながら二階に駆け上がってきた。俺は非日常的な出来事に少し心を弾ませつつ部屋を飛び出した。父の部屋の襖を開ける。このときゲームのムービーの様にやたら俯瞰的な視点になった事を強く記憶している。ベッドに父の姿はなく布団が床に垂れている。布団の先に視線をやると畳を濡らして父がうつぶせで倒れていた。恐る恐る触れる。コンクリートの壁の様に冷たい。母は119番通報し、指示を仰ぐ。あおむけに寝かせ胸骨圧迫を始めた。まだ俺は少し非日常に酔っていた。父の顔をのぞくとバンバンに腫れた顔口からピンク色の泡がリズムに合わせて吹き出る。この時父が遠く離れていったように感じた。



―「あれからまだ4年か…せっかくの夜なのに嫌なこと思い出したな…」

俺は500mlの缶がパンパンに詰まったリュックを背負い、チャポチャポと音を立て歩いていた。口内に入る煙が熱くなってきた頃


「そこの君!お願いだからちょ…ちょっとまって…」


後ろから目を輝かせたお姉さんが駆け寄ってきた。煙草か、酒か、それともこんな時間に出歩いていることか、何に言及されるか分からない不安を抱きつつ俺は振り向いた。

お姉さんは俺の右手をばっと取った。


「あの…ちょ…ちょっとお願いがあって!と…とりあえずこれ触って!」


息を切らしたお姉さんからサッカーボール大の形容しがたい異形を放り出された。お姉さんの横に半透明の中年男性が現れた。思わず声が漏れる。


「あの…私おばけの何でも屋やってるのね!で、このおっちゃんが君と話したいらしいからお願い!」


情報を処理しきれずにいると


「突然ごめんね。ちょっと君みたいな半グレ少年と話してみたかったんだ。ちょっとでいいから付き合ってくれないかな?」


そこから俺とおっさんは十分ほど会話を楽しんだ。俺がどういう人間なのか。私生活や現状の悩みなど、またおばけについて少し聞いたりした。おっさんは満足そうに


「ありがとう。君と話せてよかったよ。それじゃ」


といい笑顔で消えていった。人の役に立てた気がして少し嬉しかった。


「いやー、ありがとう!急でびっくりさせちゃったと思うけどナイス対応だったよ!じゃ!」


お姉さんはくるりと背を向け走り去ろうとしたので、流石に呼び止めた。お姉さんはピタリと動きを止め苦い顔で振り向いた。


「あの…さっきのおばけってなんなんですか?お姉さんは何者なんですか?」


「…聞きたい?」


一呼吸置いてお姉さんは話し出した。


「私はおばけの何でも屋。さっきみたいな未練を晴らしたいおばけから依頼を受けて一緒にモヤモヤを晴らそう!みたいな、そんな感じ。」


「あー…なるほど…何でも屋っすか…」


「そ、かっこいいでしょ」


「かっこいいかどうかは置いといて、何でそんなことしてるんです?」


「んー、まぁなんつーの?死後の世界で遊びたいから。かな?人って死んだら死後の世界に行くのよ。楽しい方がいいじゃん?」


「…それと依頼を受けることってどういう関係が…?」


「えーとね、死後の世界ってずっと遊んで暮らせる楽園みたいなところなのよ。でも遊ぶのに生前の行いによってもらえるポイントを使わないといけないワケ。だから依頼を受けてるって感じかな。一オバケ最低でも一未練だからね!」


父の顔がよぎった。


「どんなオバケでも未練を晴らしたいんですか?」


「そうだよ。だから私はガッポガッポで…」


俺は話を遮って叫んだ。


「お姉さん!何でも屋手伝っちゃ駄目ですか!」


「えー…急に言われてもなぁ…」


お姉さんは俺の目を見つめた。


「んー、その目に免じてよし!今日から相棒な!よろしく!」


「私は鈴原ミナ。君は?」


「藤崎イチゴです!」


「よろしくな!」


「はい!」


こうしておばけの何でも屋としての物語が始まった。


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