付与術師と大盾士の混成ジョブ持ちはダンジョンの最下層を目指す

@kyomaru2

再び訪れた冒険の地

ここはダンジョン都市ヴァルドランド。


都市の中心部にある扉は神門と呼ばれており、巨大なダンジョンに繋がっている。


 


果てが何階層なのかもわからないダンジョンで、このダンジョンのおかげでこのヴァルドラントは大きく発展した。


 


俺は隣の交易都市リベルタスからヴァルドラントに来た冒険者ロイドだ。


 


 


突然だが俺は転生者だ。


この世界がMMORPG『インフィニット・ラビリンスオンライン』の世界だと俺だけが知っている。


 


まぁ、知っているだけで特に俺だけ皆には無いチートがあるってわけじゃない。


 


俺がこのヴァルドラントへ来たのも、ここがゲームの舞台だったからだ。


 


この世界は『インフィニット・ラビリンスオンライン』と同様に冒険者は死んでも大神殿で蘇る。


 


また冒険者となる者はダンジョンと都市内での復活能力と同時に大神殿でジョブを授かり、そのジョブを一生抱えて生きていくことになる。


 


ゲームだった時は、転職が自由に可能だったし、最初からなりたいジョブを自由に選べたが、この世界では自分でなりたいジョブを選ぶことはできず、完全に運任せ。


 


尚且つ、一度授かったジョブは絶対に変更できない。


 


これにより冒険者の格差は大きく広がっている。


 


俺の授かったジョブはエンチャントガーディアン。


付与術師と大盾士の混成ジョブ。


正直最初は詰んだと思った。


 


攻撃力や俊敏にマイナス補正がかかる付与術師とガーディアンが組み合わされば案の定、ステータスは防御と生命力に偏る。


 


ゲームだった時は、人口の少ないサポート系のジョブはいろんなパーティから引っ張りだこだったから、むしろ良かったかもしれない。


 


けど、ゲームが現実となったこの世界では、火力職、攻撃職こそ正義だ。


 


ゲームのような合理性の塊みたいな連携は現実では中々難しい。


結果、この異世界では攻撃職が寄ってたかってモンスターをぶちのめすという攻略方が1番流行っている。


 


支援職やタンク職が1人、そのパーティについてたりするが、どうもその人たちの立場は悪いことが多く、彼らの貢献度は低く見積れ、不遇な立場にあるのが現状だ。


 


俺は冒険者ギルドを目指して少し足早に歩いた。


理由は単純で、早くダンジョンに潜りたかった。


 


町並みはゲームで見た頃と全く同じで道に迷うことは無かった。


最短距離で冒険者ギルドへ着いた俺は、直ぐに手続きに取り掛かった。


 


冒険者ギルドの入り口をくぐると、中は予想以上に賑わっていた。


重厚な石造りの建物内には多くの冒険者が集まり、カウンターで手続きをする者たちが忙しなく動いている。


 


「新規の冒険者さんですか?こちらへどうぞ」


 


明るい笑顔で声をかけてきたのは金髪の若い女性受付嬢だった。


彼女の胸元には「マリア」と書かれた名札が光っている。


 


「ここでは新規となりますが、隣町のリベルタスで冒険者をやっていました」


 


「そうなんですね!」


 


マリアさんは明るく微笑んだ。


 


「リベルタスは交易都市ですから、きっと珍しいアイテムを見ることができたでしょうね」


 


私は軽く首を振った。


 


「それなりには。ただ、やはりダンジョンが魅力的で移ってきたんです」


 


「なるほど!ここヴァルドラントのダンジョンは他の都市のダンジョンとは一線を画しますからね」


 


彼女はペンを取り出して紙に何かを書き始めた。


 


「では、正式な移籍手続きをさせていただきます。お名前とランクをお伺いしてもよろしいですか?」


 


「ロイドです。ランクは青銅級(ブロンズクラス)です」


 


「ロイド様ですね」


 


マリアさんは丁寧に記入していく。


 


「エンチャントガーディアン……興味深いジョブをお持ちですね」


 


やはり彼女も珍しそうな反応をする。


無理もないだろう。


混成ジョブを持つ者自体極めて少ない。


 


「ええ、少し変わっていますよね。攻撃よりも守備と支援に特化したジョブです」


 


「そうでしたか。ダンジョンでは重要な役割ですね」


 


マリアさんの言葉には配慮が感じられた。


 


「最近は火力職の方ばかりが目立ってしまいますが、タンクや支援職の方々の存在なくして安全な探索はありませんから」


 


この世界でそんな考えを持っている人がいることに少しばかり驚きながらも、嬉しく思った。


 


「そう言っていただけると救われます」


 


マリアさんが手続きを終えると、受付の奥から年配の男性が歩いてきた。


ギルド長だろうか、深緑色の制服を纏い、肩には小さな徽章が輝いている。


 


「おぉ、新顔さんか。ようこそヴァルドラントへ」


 


声の主は五十代半ばくらいの恰幅のいい男だった。


 


「ギルド長のゴードンだ。何か困ったことがあったらいつでも声をかけてくれ」


 


彼はロイドの装備を一瞥し、目を細めた。


 


「その大盾……普通と違う作りだな。どこで手に入れた?」


 


「リベルタスで鍛冶師に特注しました。エンチャントガーディアンなので魔力伝導率の高い大盾が必要で」


 


「ほほう!エンチャントガーディアンか。なるほど、支援と防御に特化したジョブか」


 


ゴードンは満足げに頷いた。


 


「確かに混成ジョブには特殊な武器が必要な場合が多い。既存の武器も使えない事もないが、それでは折角の混成要素を活かしづらくなる」


 


ここのギルドの職員たちは支援職、タンク職に深い理解があるようだ。


 


俺がいたリベルタスのギルドとは扱いが全く違う。


 


「ところで、さっそくダンジョンに入るつもりか?」


 


「はい。ヴァルドラントへ来たのは今日が初めてなので、一階層からのスタートですが」


 


「そうか、少し君のギルドカードを見させてもらったが、一階層なら難なく1人で突破できるだろう。そのまま続けて2階層、3階層と進んでも良いが引き際はよく考えたほうがいい。もしダンジョンで死亡してしまったら入手した多くのアイテムや素材をロストしてしまうことになるからな」


 


「ご忠告ありがとうございます」


 


ギルド長のゴードンさんからアドバイスを聞いた俺は、そのままゲームの時の記憶を頼りに神門へ向かった。


 


ゲームの画面から大きさはある程度分かっていたが、実際に近くで見るとすごい迫力だ。


神門に触れ、行きたい階層の数字を思い浮かべると、体の感覚が一瞬消えて


一瞬の浮遊感の後、視界が開けた。


 


薄暗い岩壁に囲まれた空間が眼前に広がる。湿った空気が肌にまとわりつき、遠くからは水滴の落ちる音がかすかに響いていた。


 


「やっぱり……ここだ」


 


思わず呟いた言葉は岩壁に吸い込まれるように消えた。ゲーム画面で何度も見てきた景色が、今やリアルな質感と匂いを持って目の前にある。


 


1階層は洞窟型エリア――典型的な初級ダンジョンの構造だ。


天井からは苔むした岩肌が剥き出しになり、地面には小石が散乱している。


所々に生える発光コケが淡い緑色の光を放ち、足元をぼんやりと照らしていた。


 


今回はパーティを組まずに俺一人での挑戦になっている為、俺以外の冒険者は居ない。


 


そこのシステムはゲームと同様のだとリベルタスのダンジョンで確認済みだ。


 


少し進むと低級モンスターのスライムが現れた。


 


何の変異種でもない普通のスライムだ。


 


エンチャントガーディアンは攻撃手段に乏しいジョブでスキルを伴わない攻撃となれば大盾で叩いたり、タックルをかましたり。


 


もしくはエンチャント用の短杖で微弱な魔力弾を出すかだ。


 


魔力が勿体ないと思った俺は大盾のバッシュでスライムを攻撃した。


 


付与術師と大盾士のステータス補正により、攻撃力が極端に低いこのジョブは本来なら1撃で倒せるスライムを倒すのに、2撃必要なのがネックだ。


 


それから何回かスライムとエンカウントしたが、スキルを使うまでもなくそのまま1階層を突破。


 


俺はこのまま2階層へ進む事にした。


 


 


2階層へ転移した瞬間、視界が歪んだように揺れる。


足元の感触が変わり、洞窟の空気感も一変した。


先ほどまでの苔むした湿度のある空間とは異なり、ここは人工的に切り出されたような四角い通路だった。


 


「……来たな」


 


ロイドはゆっくりと辺りを見回した。


壁面には不自然な角度で配置された松明が灯り、時折風もないのにちらつく。


通路の両側には等間隔で金属製の扉が並び、それぞれに奇妙な文字が刻まれていた。


 


ゲーム画面では単なる背景として流していたが、実際に立ち会うと圧倒されるのは、まだ俺の感性が現代日本人のままだからだろうか。


冷たく硬質な空気が肺に入り込み、まるで別次元に足を踏み入れたような錯覚を覚える。


 


「やっぱりリアルで見ると違うな」


 


2階層を慎重に歩き始める。


 


ある程度進むとギィーという声が聞こえてきた。


 


「ゴブリンだな」


 


鳴き声と話し声の境目のような声質。


 


進んでいくとその声は大きくなり、曲がり角曲がると2匹のゴブリンを発見した。


 


ゴブリン2匹は俺に気づくと、咆哮を上げて突進してくる。


小柄な体躯にも関わらず、野生動物のような俊敏性を見せていた。


片方は錆びた短剣を持ち、もう一体は拳を握りしめていた。


 


「……ふぅ」


 


俺は息を整え、大盾を前に構える。


 


エンチャントガーディアンのステータスは明らかに不利だ——攻撃力は最低ランクのEだし、俊敏性も低いから素早く小回りの利く敵を相手にするには向いていない。


しかし、ここで引くわけにはいかなかった。


 


まず短剣を持ったゴブリンが飛び込んできた。


 


技術の伴わないただがむしゃらに突っ込んで突き刺す戦法。


 


俺は大盾を構える腕に力を込めて、一歩だけ大きく前に出る。


 


たったこれだけの事で、衝突のタイミングをズラされたゴブリンは突然鉄壁にぶつかり手痛い反撃を受ける。


 


ただこれだけでは倒せない。


 


もう1匹が仲間の負傷によって怯んでいるうちに、俺はスキルを発動させる


 


「【マジック・シールド】」


 


大盾に純粋な魔力の層を付与して、防御力の上昇と敵の攻撃をガードした際に、その衝撃を吸収して魔力に変換するスキルだ。


 


仲間が傷付いて激昂した手ぶらのゴブリンは、そのまま怒りに身を任せて俺に突っ込んできた。


 


先程のようにこちらから動いて、ゴブリンにカウンターを食らわせることも出来たが、あえて攻撃をガードして衝撃を溜める。


 


負傷したゴブリンも起き上がり、再度攻撃を仕掛けてきた。


 


しかし、もうゴブリンを倒すのに十分な衝撃は溜まりきった。


 


「【マジック・バースト】」


 


これまでゴブリンの攻撃によって蓄積された衝撃は【マジック・シールド】によって魔力に変換されている。


 


それを魔力弾として放つのが【マジック・バースト】だ。


 


【マジック・シールド】、【マジック・バースト】はどれもエンチャントガーディアン専用のスキルで、厳密には攻撃スキルではなく結界、障壁系のスキルに分類される。


 


結界系や障壁系のスキルは耐久値がゼロになるか、一定の経過時間が過ぎれば解除される性質で、その耐久力は魔法防御力と物理防御力を参照して決まる。


 


それはつまり【マジック・バースト】の魔力弾の威力の計算が、攻撃力ではなく防御力で行われるということ。


 


大盾の表面に蓄積された淡い青白い光が一点に凝縮される。俺の掛け声と共に、それは閃光となって迸った。


 


盾の中心から放たれた魔力弾は、残るゴブリンの腹腔を正確に貫いた。


質量を感じさせる鈍い衝撃音とともに、緑色の小鬼の肉体は文字通り引き裂かれた。


断末魔の悲鳴さえ上げる暇もなく、ゴブリンは膝をつき、胸部にぽっかりと穿たれた漆黒の孔から血飛沫を撒き散らしながら崩れ落ちた。


その身体は粒子の光に代わり、虚空へ消えた。


 


ここまではゲームではチュートリアルだった範囲だ。


 


次の3階層は初のボス戦。


 


このボス戦を終えたら晴れて、『インフィニット・ラビリンスオンライン』のチュートリアルは終了になる。


現実でもチュートリアルを終えるべく俺は3階層へ進んだ。


 


転移完了の刹那、周囲の空気が変わった。


これまで構造と打って変わって、圧倒的な広さがロイドを迎え入れた。


頭上は遥か高くドーム状に開け、その広場の中心には二足歩行のクマ型のモンスター、剛力熊ガントベアが鎮座していた。


 


俺は距離がある今のうちに【マジック・シールド】をかけ直した。


 


純粋な獣型のモンスターであるガントベアは火属性が弱点だ。


 


「【フレイム・エンチャント】」


 


火属性効果を付与する、付与術師本来の基本的なスキル。


 


これにより、俺の【マジック・シールド】純粋な魔力の層ではなく、炎属性の魔力の層へ変化した。


 


俺がスキルを発動した事が、戦闘開始の合図となり、ガントベアは低い咆哮をあげて、こちらへ向かってきた。


 


俺はガントベアをギリギリまで引きつけ、前足の爪で攻撃してくるモーションを確認してからスキルを発動させた。


 


「【鉄壁】」


 


大盾士が一番最初に習得する最も基本的なスキル。


 


その場から動けなくなる変わりに、防御力とガード値を瞬間的に飛躍させ、大型モンスターの攻撃にふっとばされずに耐えるスキル。


 


ガントベアの強靭な肉体から繰り出される前足攻撃の衝撃は強く、一度で多くの魔力が溜まるのが体でわかった。


 


ガントベアの攻撃を受け止めた大盾は微弱な火属性障壁があり、攻撃した者をじわじわと炙った。


 


「グォオオオオ!」


 


それに気づいたガントベアは怒り状態へ移行し、乱暴に両前足で連続引っ掻き攻撃を始めた。


 


俺はインパクトの瞬間に合わせて【鉄壁】スキルを使いながら、その場を凌ぎ続けていた。


 


しかし、何時までもこの状態が続けば、こちらがスタミナ切れしてガードが崩れ、モロに一撃を受けてしまう。


 


それを避けるために俺は攻撃の合間の一瞬の隙を突いて別のスキルを発動させた。


 


「【魔力障壁】」


 


自身の最大HPを参照した30%の耐久値と防御力を参照した耐久力を持つ障壁を目の前に展開するエンチャントガーディアンのスキル。


 


その障壁がガントベアと俺の間を遮った。


 


ガントベアの猛攻から解放されたその隙に、距離を取った俺は大盾を構え──


 


「【フレイム・バースト】」


 


【マジック・バースト】に火属性のエンチャントが乗り、高火力の魔力砲となってガントベアを焼き尽くした。


 


ガントベアの巨体が一瞬にして赤熱し、炎の奔流に包まれる。


轟音と共に爆ぜた紅蓮の閃光が洞窟内を眩ませた。


肉が焼ける焦臭い煙が立ち込める中、巨獣の動きがピタリと止まった。


 


「…倒したか」


 


光の粒子となって消えていくガントベアを見つめながら、改めて俺は『インフィニット・ラビリンスオンライン』の世界に来たのだと実感した。


チュートリアルも終わった事だし、一度ギルド帰る事にするか。


そう思い、フロアの端に設置してあるオブジェクトに触れると、円形の台座に嵌め込まれた水晶体が淡く輝き始めた。


帰還。


その思念に反応して


 


光の粒子が全身を包み込む。


体が軽くなるような浮遊感と共に、視界が白く染まった。


 


目を開けると、そこは神門の目の前だった。


 


「……戻ってきた。後はギルドへ戻って到達階層の更新をしてもらうか」


 


俺はギルドへ向けて歩き出した。

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