休符

Rotten flower

第1話

ガタン、と駅前の通路の自販機が声を荒らげる。そっと私が下の受け取り口に手を伸ばすと、自販機は怒ったのか「あったか〜い」を超えて熱いレベルのコーンポタージュを返してきた。踏切の音が鳴り止んで、電車はかなり遠くに小さく見える程度になっていた。

ひと二人ふたりが一緒に通ればキャパシティを迎えるこの通路で私は縮まって人の流れが休まるのを待っていた。

カシュ、缶が音を立てて開く。口の中に熱いポタージュと甘いコーンの粒が流れ込んでくる。冬特有のこの感覚を久々に味わったと半年ぶりの満足感を思い出すと、私はそっと深く息をした。

そっとスマホを確認する。メッセージの通知はまだない。電車に乗っているからメッセージが返信できないのかな?そう考えると、一件「大丈夫?」とだけ送ってタイムラインを眺めることにした。


「今日、一限目明らかに間に合わない時間に起きた。死にたい」

「仮病でおやすみしました✨️」

なんとも日常的、平和な投稿が私の画面を上から下へ流れていった。そう、SNSはこんなものでいいのだ、と満足する一歩手前に私の目を惹く投稿が流れてきた。

「世界はそのうち宇宙人の手によって破滅する!」という一文から始まる胡散臭さ満載の長文投稿。私はそれを一度タップすると、最後の句点まで読み進めていった。ハズレだ。私はくだらない、と画面を上へスワイプして、その投稿をどこかへってしまった。


電車の停車音が聞こえて、ぱっと視点を移した。彼が乗っているであろう普通列車がホームに停車していた。

「……遅い、メッセージくらい返してくれていいじゃん」「ごめんごめん」彼は全く持って悪びれた様子もなく笑顔で謝っている。私はその怒りを伝えるように、どんどん、と彼の胸元を叩いていた。

結局、彼はなんとも思わない顔で背中を向けてどこかへ向けて歩いていくものだから、私も立てかけたギターケースを急いで背負しょって後をついていくのだった。


踏切を超えて駅近の商業施設、四階建て。彼は足早に三階へと向かう。目的は私には手に取るようにわかった。

「本屋さん行くんでしょ」「よくわかったね」「何年目の関わりだと思ってんだ」そんな他愛もないトークを繰り広げている。展望エレベーターから見える朝日は住宅街を優しく包みこんでいるようだった。

彼は作詞を務めているからか、いつも本屋に行っては何冊かの文庫本を買って読み込んでいる。表現の種類を集めたいのか、それともただの趣味か。私には全くわからない。

「そんなに本を読むなら電子書籍にすればいいのに」「わかってないな、紙のほうが付箋がつけやすくて便利なんだよ」

……彼にとって小説とは「表現の辞書」なのかもしれない、そう実感した。そういえば、琴線に触れられた表現はよく引用したり、オマージュしたりすると言っていたのを覚えている。

「あとは、日常生活では感じれないようなものが書かれていたりするから。外国人の視点から日本を見たような文を書くなら外国人の意見を聞いたほうが自分で考えるより理にかなっているだろう?」……私も少しその意見には賛成だ、が創作とはそういうものではないのか?と疑ってしまう。確かに当事者の意見を聞くのはわかるが、それでもそこを考えるのが創作の良さと言えるのではないだろうか? と、作詞もしていない私が言うのもなんだが。


すっと、本屋に熱中している彼を尻目に私はエレベーター脇の壁際に立ち、手に持っていた缶を飲み干す。彼と出会った頃には熱かったものがもう既にぬるくなっていた。とろりとした口触りの液体の流れが止まると、缶の底がはっきりと見える状態になっていた。

空になった缶をカバンの中に閉まっていると、彼は本を眺め終わったのか私の横に立っていた、本を二冊ほど持ちながら。

「ねぇ、また買ったの?」「本との出会いは一期一会だからね」

取り寄せればいいのに、という本音をぐっと堪えて私はエレベーターの下ボタンを押した。

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