#2 カリスマが怖いん知ってるから、ウチが操る側におるんや。

 昼休み――二年二組。

 机に突っ伏して寝てるやつ。スマホで動画流しっぱのやつ。

 女子グループの机では、今日もキャッキャと笑い声が弾けてた。


 話題は、人気ギャルYouTuberの新作メイク動画。

 つやつやグロス、ぷるぷるリップ……

 みぃんな動画で紹介したもん、欲しがってる。


 ――カリスマ力って、ほんま怖い。


 「これ、ええよ♡」って光まぶしい人が一言いうてみ。

 それだけで数字は、いくらでも跳ねあがる。

 落ちるときも、あっけないくらい一瞬や。


 マルチの世界も同じや。


 稼いでるトップの人に憧れて、「あの人みたいになりたい」から始まる。


 自分の判断よりのほうが強うなる。

 光の強い人の足あとを、そのまんまなぞるだけやと思うやろ?


 でも気づいたら、自分も同じ道を、同じ価値観で歩いてるんや。

 マルチは、人と会うても「損か得か」で考えるクセをつけさせる。

 せやから勧誘に乗らん友達すら、簡単に切ってまうんや。


 光ってる誰かに、簡単に心を預けてしまう感覚。


 そこが、怖いんや。



 ウチらのクラスにも、まぶしいカリスマがおるで。

 あだ名は

 映える赤毛のマッシュヘア。女子ウケは一丁前のイケメンや。


 女子の期待に答えて、かっこつけてをちゃんとやってるタイプやで。



 ウチは、そのの親衛隊リーダーしてるんよ。

 信仰される側の空気を読んだ上で、ぐいっとまとめてるんや。



 で――そのが、たけのこの里を手にしてた。


 はカリスマ力あるくせに、どこか人と距離を置こうとしてる。

 ――カリスマ力をふりまわしたら、どうなるか。

 ウチやったらの光で、あのお菓子を倍にしたるわ。



 ウチは身を乗りだして声をかけた。


「なぁ。そのたけのこ、一粒くれへん?」


 は眉をひそめつつ、髪をかき上げる。


「一粒だけだぞ」


「サンキュ~。優しいやん」


 口の中で、たけのこをギタギタに噛みくだく。

 ウチはポーチから飴ちゃんをわしづかみにした。


 ウチはニヤッと笑い、女子らに聞こえるように声を張る。


「ほなウチの番やな。倍返しや!」


 色とりどりの飴を、アキラの手のひらにパラパラ落とした。

 が目を丸くする。


「もろた分は倍で返す。奉祀ほうしは多め。これ、常識やろ?」


 その瞬間、周りの女子が一斉にざわついた。


「ウチらもリーダーに続けーっ♡」

のたけのこ触れたら、恋叶うって♡」

「推しからの神アイテムやで!? 奉納ほうのうは盛っとかな♡」

「これくわえたら両想いになる言い伝えあるで♡」


 ……とまぁ、こんな具合や。


 のたけのこは秒速で奪われた。

 せやけど彼の机は、お菓子の山積みや。


 ほらみぃ。

 ただのたけのこやのに、付加価値ひとつで倍、いや倍以上になる。


 マルチもこれと似たようなもんや。

 品はそこらと変わらへんのに『あの人が持ってる』で買う。

 普段は十円の値上げにギャーギャー言うくせにな。


 チャラ男までたけのこ奪ってて、が悲しそうな顔してる。


 ほんまは、たけのこの気分やったのかもしれへん。

 ……ちょいかわいそうなことしてもうた。



 は周りの期待に応える、ええ子や。

 アイツ自身は、変な方向いくタイプちゃう。

 せやけど、ええ人がどこで変わるかなんて分からん。


 トップが変わったら、下の子らは一瞬で引っぱられる。


 せやからウチが親衛隊リーダーする。

 かわええ女子らが変な方向へ行かんよう、空気を正してるんや。


 大きな力に呑まれたくなけりゃ、ウチ自身が力を持っとけばええんやで。

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