じっちゃんの遺産で、ねずみ講の鍋セット(二十万円)買わされた。

登々@totto

プロローグ

 小学二年生。

 まだウチが、歯がガチャガチャで、ほっぺはまっ赤──そんな頃の話や。


 授業参観のテーマは「ママのお仕事」。


「ウチのママは ●●●●●で りょうり教室の先生をしています。

 ママは りょうりが すごく上手です。

 ウチは ママのことが だいすきです。

 ママは おさらも おやさいも おにくも きれいに あらいます。

 とても きれいずきです」


 読みあげたとき、うしろの席がちょっとザワッとした。


 ――ウチのママ、すごいって騒いでおるんかな。


 そんなふうに思ってた。


 読みおわると、みんなは一応ぱちぱちしてくれた。

 けど、その拍手はすこしだけ、バラバラやった。


 


 つぎの日。

 教室に入ったウチに、みんながそっぽを向いた。


「おはよー」


 声をかけても、だれも返事してくれへん。


 放課後、いつもいっしょに遊ぶ友だちに声をかけた。


「きょう、こうえん行こ?」


 すると友だちは、ちいさな声で言った。


「……ごめん。ママが ツバサちゃんと あそんだらダメって……」


「え、なんで!?」


って、いけないことなんだって。ごめんね。ツバサちゃん、わるないのに……」


 友だちは、申しわけなさそうに目をそらして、走って行った。


 残ったウチだけ、ぽつん。


 胸がきゅーっとして、家に帰ったら涙がとまらんかった。


「ねぇ……ママ。ウチのママ、いけないことしてるん?」


 ママはそっと頭をなでてくれた。


「ごめんね、ツバサ。

 ママはね、いいものをすすめたり、おいしい料理をおしえるお仕事をしてるの。

 ほんとうに、わるいことはしてないのよ。

 でも……よく分からないまま、こわいって思う人もいるの。だから、しかたないの」


「でも、ママがわるく言われるのはイヤや!」


「……ツバサは、ママのこと好き?」


「すき。ママのりょうりも、だいすき」


 ママはぎゅっとだきしめて、ほほをすりよせた。

 あったかくて、やわらかくて、いいにおいがした。


 きれいで、やさしいママ。

 ウチ、ママのこと大好きや。


 だけど――


 ママがほんとうに分かるのは、もっとずっと先の話になる。

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