第15話 至福の夜 第二次捕獲に向けて②
夜7時少し前になりました。
客席は、すでに満員です。
ステージの田中さんは・・・目を閉じて、うつむいている。
(緊張している?それとも集中している?顏が青白いかも)
「今夜は健ちゃん?」
「うん、山本さん、いないね」
(いろんな声が耳に入ります)(私もドキドキして来ました)
マスターがステージに立ちました。
少しお辞儀して、メンバーの簡単な説明です。
「山本さんが風邪ということで、今日は健太君が入ります」
「いつもとは、少し違うコンボをお楽しみください」
大きな拍手の直後でした。
田中さんのソロが始まりました。
「Angel Eyes」を、ずっしりと、重ためです。(本来は甘美な曲です)
少しざわついていた客席が、一瞬にして静まりました。
なんか・・・魂をえぐられるような、ピアノのタッチと歌わせ方です。
ベース、ドラム、ギターがさらに渋く、田中さんに重なります。
誰も、飲み物も食べ物も、口にしません。
(演奏に心を奪われ、身動き一つできない、したくない雰囲気)
「Angel Eyes」が終わりました。
田中さん、立って、お辞儀します。
凄い拍手と、足踏みです。
ジャズコンボのメンバーも、田中さんに拍手しています。
(田中さんは、まだ表情が固いかな、少しだけ頭を下げました)
二曲目は、打って変わって、アップテンポな「One O'clock Jump」になりました。
ベイシー特有のファンキーなリズムとメロディが、響き渡ります。
田中さんは・・・パワフルで、キレキレって感じです。
ニコニコと他のメンバーを見ながら、煽っている感じ。
客席の盛り上がりもすごいです。
身体を揺らして、目を輝かせています。
「One O'clock Jump」も終わり、また、すごい拍手です。
マスターが、ニコニコしています。
「サンドイッチ食べさせてよかった」
(ガス欠を心配しているのかな)
(そういえば、お昼も夜もサンドイッチしか食べていない)
三曲目は、「Fly Me To The Moon」を、おしゃれなボサノヴァ風に。
これも、ノリノリです。
客席の雰囲気も、また穏やかな感じ。
目を閉じて、それぞれのソロに聴き入ります。
これも大拍手で終わって、四曲目になる前のことでした。
メンバーが、田中さんに手を合わせています。(お願いのポーズ?)
マスターが苦笑いしています。
「健ちゃんに歌わせようとしている」
聞いてみた。
「歌うんですか?」
マスターは頷きました。
「うん、いい声、極上品、客もみんな、知っている」
客席から(期待の?)拍手が始まりました。
田中さん、恥ずかしそうな顔です。
でも、咳払いをしています。(歌う準備?)
それで・・・そのまま、始まりました!
「I'll Be Home for Christmas」
私は、震えました。
確かに極上のテノールです。
(はあ・・・うっとりです、泣けるほど)
(こんな美声も隠していたの?今まで聴けなかったのが、悔しい)
マスターがポツリと言いました。
「これを聴くと健太君を専属歌手にしたいと思うよ、マジに」
「でも、ピアノもシンセも捨てられない」
デュエットしたいなあと・・・本当に思います。
でも、恭子と佐保、奈美には、聞かせたくない、もったいない。
※至福の夜 第二次捕獲に向けて(ハグして欲しい!)③に続く。
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