第14話 至福の夜 第二次捕獲に向けて①

鈴木裕美です。

啄木の講義でも、ぴったり身体を寄せました。

(マーキングですか?はい、その通りです)

(周囲の目?気にしません)(見せつけます)

(だって、逃がしたくないし、こうでもしないと、私が不安だから)


下北沢のステージも楽しみです。

でも、その後、送ってもらうのも、ドキドキします。

(寒い夜なので・・・暖められたいなと)


そっと手を伸ばして・・・きれいな指をもてあそびたい。

でも、ピアニストの指、しかも本番前。

(彼女を自覚するので、自制します)


田中さん、時々テキストにメモしています。

字は、丁寧で上手です。

(ペン習字のお手本風です)(私の名前も書いて欲しい)

(そんなことで、啄木さん、ごめんなさい、何も聞いていません)


歩きでも電車でも、「ピッタリ寄り添い」は、外しません。

田中さんも、少しだけ、顏がやわらかくなっています。

(学習効果かな、もっと私をすり込みたい)


下北沢のジャズバーには6時少し前に着きました。

すでに3人、ステージにいます。

「ありがとう、健ちゃん」の声がステージから、かかりました。


マスターが「ほお・・・」と、「私たち」を見ます。

(私は、にっこり)(マスターもウィンクで了解らしい)


田中さんは、小走りにステージに進んで、打ち合わせを始めました。

(旦那様を見送る妻?はい、ありがとうございます)


じっとステージを見ていたらマスターが珈琲を淹れてくれました。

「健ちゃん、いい子だろ?」


「はい」(それ以上です、私には)


「健ちゃんは、親御さんから、なるべく独立したいとかで、家賃分は稼ぐって、ここで弾いてもらっている」

(・・・そうだったのか、ご実家は横浜。嫌な女の佐藤由紀情報だけど)

「防音アパートだから、高いらしい」

(確かに、それはわかります)


「頼むよ、健ちゃんを」(え・・・そのつもりです)

「時々、寝食忘れるんだ、父親譲りの職人気質」

(なんか、すごく、よくわかる)

(レポートで頑張ったのかな、今日の午前中も寝ていた)


田中さんが、ステージから戻って来た。

マスターが、「食べておけ」と、田中さんの前に、サンドイッチを置いた。


「助かります」

(田中さんは、素直に食べている)

(サンドイッチ好きなのかな、お昼もカツサンドだった)

(私が作ったら食べてくれるかな、特訓開始しよう)


サンドイッチを食べ終えた田中さんは、すぐにステージに戻った。

(やはり、職人気質だ、まずは仕事優先かな)


マスターが教えてくれました。

「健ちゃんの親父さんとは、大学で同級生」(それで知り合いの息子と)

「今、Tフィルでチェロを弾いている」(え?恐れ多い・・・)

「時々、彼もこの店に来る」(ご挨拶せねば・・・緊張するかも)


「いつもは、ソロですよね」

(今夜みたいな助っ人を、他にもするのかな?と聞いてみた)


マスターは、苦笑した。(そのココロは?)

「セッションしたい人は、多いよ」

「健ちゃん、合わせ上手だからね」

(音楽は合わせ上手、女の子には口下手で逃げ腰か)


※至福の夜 第二次捕獲に向けて②に続く。

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