7 吠える二人
『ここからは伝音を使って話すぞ』
『了解』
霊気戦闘術の一つであり雑技と呼ばれるこの”伝音”は、霊気を糸のように繋いでお互いの声を届けるという、いわば糸電話のような技術だ。
そこでさらに”
風呂の位置からはシャワーの音が聞こえ、奥のリビングからは大音量でアニメが流れている。
『光輝は風呂、俺はリビングを攻める』
すり足でリビングに向かう途中で横を見ると、風呂場の一角に脱ぎ捨てられた服が無造作に積まれていた。
『うわ、きったな』
風呂場に入っていった光輝の嫌そうな声が伝音で伝わってくるが、こちらは構わずにリビングへと入っていき、ソファーの後ろへ回り込んだ。
目標はソファーに寝転がっており、幸い隠身とテレビの音によって俺には気づいていないようだ。
『やるぞ』
『よし、せーの!』
霊力により強化された手刀は、綺麗に首を捉えて意識を刈り取った。
「ふう」
しかし、息をついたのも束の間にお風呂場から怒声が響き渡った。
「天誅ッ! 天誅ッ! 天誅ぅううッ!」
「おいおい」
急いで駆けつけると、風呂のバスチェアに気を失った先輩がおり、光輝はその”男の急所”を蹴り上げていた。
「おいおい、やりすぎると治せなくなるぞ?」
「不能になれば性格良くなったりしないかな」
「そんなやわな性根だったら、とっくに矯正されてるだろ」
そのまま二人をそこらへんに散らかっている服で縛り上げてリビングに置いておき、光輝が異能でそのゴールデンボールを治していると、程なくして二人は目を覚ました。
「あれ? ここは... なんで光輝と健人がここに?」
「はッ... 俺のご立派様がぁ! ある?」
起きたところで、やっと本来の尋問が始められそうだ。
「さて、なんで縛られているかが分かる人~」
「「はい!」」
生存本能だけは一丁前な先輩二人は、我先にお互いのやらかしたことを暴露し始めた。
「こいつが光輝のポケットにパンツ忍ばせたことだろ!」
「はぁ? お前が一昨日の任務をバックレたからに決まってる!」
「.....」
「光輝、落ち着くんだ」
「分ってる、分ってるけどさぁ.....」
お互いの粗探しから罵り合いにシフトした二人の口論を一旦仲裁し、光輝をなだめてやっと質問が出来そうだ。
「なんで新入生バトルロワイアルの件を黙ってたんだ?」
しかし、その質問に二人は何てことないように答えた。
「ああ、その事ね」
「それがどうしたんだよ」
「.....」
「結果が校内序列戦に関係してくるのに?」
「「いやぁ....」」
二人は自分は関係ないとばかりに虚空を見上げ始めた。
「今回の事は上に報告しとくよ、折檻は不可避だな」
そこで光輝がしたり顔をして言った一言に、二人はやっと現状を理解したようにガクガクと震え始めた。
「冗談... だよな」
「ん? なんだって?」
「俺達、友達だろ?」
光輝は二人をもてあそんで愉悦に浸っているが、今日ぐらいは許してやってもいいだろう。何しろ、さっきも触れていたパンツの件で光輝は3回くらい無実の罪での折檻を受けている。
このコンビの処遇は光輝に任せるとして、ここからは情報収集にシフトしていこう。
「きちんと情報をくれれば、俺から掛け合って酌量の余地を作ることもやぶさかじゃないんだが... どうする?」
「「謹んで、承らさせて頂きます!」」
いや〜 骨を粉砕(物理)される程のムチの後に貰える飴ほど甘いものはないな。まあ、俺が許しても光輝が許すとは言っていないので、そこはあしからず。
「じゃあ、早速だけど例のバトルロワイヤルについての概要を教えてもらえるか?」
「おう、まずその新入生バトルロワイヤル... 通称"新歓"はな、各学年の同じランクの生徒が集まって行われるバトロワだ」
「一から三年の全学年が、クラスのランクごとに分けられてやるってことね」
「なるほど... 新入生だけじゃないのか」
「ちょっと待て」
理解した様子の光輝に対して、俺は一つの疑問を持った。
「俺はEクラス配属なんだけどさ、先生の話ではEクラスは例年だとほとんどが脱落するって聞いたぞ? そこん所はどうなんだ?」
「あーね、中間試験と期末試験でクラスの再分配が行われるから、そこでいい感じにバランスが取られんの。で、成績足切りの奴は退学ってわけ」
「てか、ケンちゃんEクラスってマジ!? どんだけ手を抜いたんだよ」
上からの命令で能力の使用は最低限かつ偽装しろと言われているせいで、俺の異能の評価は万年Eランクだった。そして、それはこの実力主義の学園にぶち込まれてからも変わっていなかった。
こんな状態で八剱の所有者になる... つまりは校内序列戦の10位圏内に入らなくてはならないのだから、この馬鹿二人がやったことは本当に笑えない。ただでさえ試験での異能評価という最も重要な項目がE確定なのだ。全ての評価がポイントに換算される校内序列戦の為にも、こういうイベント事では確実にポイントを稼がなければならなかった。
「まぁ、クラス相応に手抜きしたな」
「へ〜、てことは健人の刀剱無双が見られるってワケか。こりゃ楽しみだ」
「は?」
「実はな、バトロワの映像はLIVE配信だ。お前らの勇姿はバッチリ録画しておいてやるぜ!」
その憎たらしい程のキメ顔をした2人に対して、俺と光輝は同時に吠えた。
「「それを先に言えよッ!!」」
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