冬 天鵞絨 3
週末、トワフの事務所に行くと、やはり何着も試作品を着させられた。
「そろそろ、本職のモデルさん頼んでよ。最近、人気モデルがインスタにトワフの服をお気に入りって載せてくれたって聞いたし、その子とかいいんじゃない。」
「だめだめだめ。
私は最近椿のイメージでトワフの洋服作ることが多いから、モデル変えるとブランドコンセプトまで変わっちゃう。
椿がモデルできなくなったら、トワフはおしまいにして新しいブランド始めるつもりなんだから、できるところまで付き合って。」
小久乃がピンで洋服のシルエットを変えながら言った。
トワフの洋服は、クラシカルで礼服めいたデザインが特徴だ。
そのため舞台や映画、コマーシャルの衣裳に起用されることが多い。
オンライン販売のみで実店舗は持たない形態だ。
日常服もドレスライクでヴィンテージなものが多いが、最近じわじわとファンが増えてきている。
今着ているのは紺色のベロア素材のミニワンピースだ。
胸の部分が白いレースになっており、その周りに同じく白のチュールレースがついている。
ハイネックの首には、黒のリボンが結ばれ、裾には白の刺繍が入っている。
同素材のベレー帽とT字ストラップの靴がセットになっている。
充分可愛いが、これは来季の秋冬物の試作だから、ここからさらに改良するのだ。
「これから販売する春夏物なんだけど、またYouTubeで宣伝してみようかと思ってるところ。すぐオンラインショップにアクセスできて親和性高いと思うのよね。というわけでこれから撮影お願いできる?」
「これから!?」
「急で悪いんだけど、もう樹神(こだま)くん呼んじゃった。」
小久乃が悪びれずに言う。
青い小花模様が胸と袖、裾に刺繍された白いレースワンピースに着替えさせられ、ヘアメイクもされてスタジオに移動すると、樹神が既に撮影準備を完了させていた。
樹神は、小久乃の知り合いの息子で映像関係の専門学校に通っている。
背が高く痩せていて少し猫背だ。
トワフが初めて動画を作るにあたって撮影と編集をお願いしたところ、動画の出来がよかったため、その後も動画撮影時には来てもらっている。
小道具の花束を渡され、樹神と小久乃に言われるがまま、ポーズを取ったり歩いたりする。
途中で何度も衣裳が変わった。
小久乃は、「もっと無邪気な感じ。」とか「小悪魔でお願い。」とかよく分からない指示を出してくる。
プロのモデルに頼んでよ、と文句を言いたいのを堪えながら、椿は撮影に臨んだ。
「素材はこれくらいでいいでしょう。」
樹神の一言でようやく撮影が終わった。
一応撮影した映像を見せてもらうと、無表情の椿や、小久乃の指示にむっとした顔をする椿が写っているだけだった。
こんなんでいいのかと毎回思う出来だ。
周りに人がいない隙を見計らって、樹神に近づき
「今日行きたいです。」
と言うと樹神は露骨に嫌な顔をした。
「俺、帰ったらこの動画の編集しなきゃいけないんだけど。」
やんわり断られたが、椿は食い下がった。
「樹神くんは、編集しててください。私はゲームしてます。
こないだの樹神くんの動画のやつ。
マンションの前で待ってますから。」
「火生家のご令嬢にそんなことさせられるわけないでしょう。」
樹神がはあーっとため息をついた。
「小久乃おばさん、俺もう帰っても大丈夫ですか?」
「いいよー。明日までにざっくりでいいから編集お願いね。それ見てナレーションとか考えるから。」
「了解です。」
樹神は椿に向き直って
「じゃあ一時間後にチャイム鳴らしてください。」
とだけ小声で言ってきびすを返した。
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