冬 天鵞絨 2

椿は家に帰る車のなかで大きなため息をついた。

椿以外の三人は、すぐにでも結界創りに着手するだろう。

椿だけ、気持ちが通じあった人もいなければ、思い出の香りもない。

紫苑や鈴蘭に言われたとおり、告白してきてくれる男子は多い。

しかし、その誰もが椿そのものではなく、火生家だとかモデルをやっていることだとかを見ている気がして、椿には空々しく聞こえてしまう。

モデルといっても本格的なものではなく、支援している洋服作家の手伝いをしているだけだ。


火生家はエネルギー産業をしている。

昔は、薪や炭を売っていたのが、炭坑経営に乗り出したことで財をなし、それを原資にエネルギー革命も乗り越え、石油、ガス、電気と手広く事業を広げた。

近時の再生可能エネルギーは、利益にはならないものの、企業としてこの地域の環境を保護する理念に基づき、粘り強く普及に取り組んでいる。

椿は、慣習により十八歳まで家業には関われないものの、親の教育方針により、興味のある分野に投資する資金を与えられていた。

社会勉強の一環と言うわけである。

ファッションに興味があった椿は、二年前に見つけた個人の洋服作家の作品に惚れ込み、支援を続けてきた。

初期はプロのモデルを頼む資金がなく、頼み込まれて椿がイメージモデルを務めたことが始まりだった。

今は、三十人ほどの会社となり、モデルを頼むこともできるようになったのに、イメージモデルだけは椿にお願いしたいと言われ、いまだにブランドのウェブサイトやカタログに載せるシーズンごとの撮影、店頭ファッションショーなどに駆り出される。

小さなブランドだし、誰にもバレないだろうと思っていたのに、中等部の頃、学校に知れ渡ってしまった。


慣習といえば、四家には共通した慣習がいくつかあり、十八歳まで家業に関われないというのもその1つだが、なぜそのような慣習が生まれたのか、椿はやっと分かった。

呪いが発動した世代の子は、十八歳までに死ぬ可能性が高いからだ。

せっかく家業を継ぐための教育を施しても、死んでしまっては無駄になる。

他の兄弟姉妹にだけ教育を施すと、後々の無用な跡目争いのもとになるから、子には一律十八歳まで家業に関わらせないこととしたのだろう。

家同士での婚姻が忌避されているのは、血が混じってしまうと、四家に同じ年に女の子が生まれたとき、というのが判別できなくなってしまうからだ。

家に到着したので車を降りる。

椿の家は、火生エネルギー産業株式会社の本社ビルの内部にある。

オフィス街でひときわ目を引く巨大ビルの裏口から中に入り、エレベーターで専用パスをかざすと、居住部分にたどり着く。

裏口と言っても、守衛が常駐しており、エレベーターホールの前に小さな石造りの古めかしいエントランスがある。

そこに香水塔があった。

本社ビルは、火生家の屋敷があった場所に十数年前に建てられたのだが、その際、先代がどうしてもこのエントランスは残したいと言ったため、家族だけが使う裏口のエントランスとして当時のまま残っている。

ずっと噴水だと思っていたが、思い返せば水が入っていたことはない。


椿の部屋は、地上十四階にある。

部屋に入るとすぐにパソコンを起動する。

椿が支援しているブランドのトワフからメールが入っていた。

来季の秋冬物の試作ができたので見に来てくれないか、という依頼だった。

おそらく、デザイナーであり創始者である小久乃さくのが、椿に実際に着せてイメージをもっと固めたいとかなんとか言ってるのだろう。

小久乃は良くも悪くもクリエイティブな人だ。

週末に行くと返信する。

他の投資先からのメールに目を通したり、返信を考えているうちに、夜も更けてしまった。

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