夏 百群 4
水生家の屋敷は、和洋折衷になっている。洋館と日本家屋を半分ずつくっつけたような建物だ。屋敷と同じくらいの広さの庭園も、西洋庭園と日本庭園が半々になっている。治水事業に長けた水生家ならではの見事な庭園だ。今日は、空一面が雲に覆われたぱっとしない天気だが、晴天のもとで観賞すればさぞかし美しいだろう。今日の雲は、太陽の輪郭が分かるから半透明雲に分類されるのだろうか、などと考えているうちに、 紫苑の部屋に通された。紫苑の部屋は洋館部分にあって、白とベージュを基調として、パープルのカーテンとモロッカン風の柄の丸いカーペットがアクセントになっている。紅茶が運ばれてきたので口をつけると、ほのかに甘い香りがした。
「水蜜桃の紅茶だよ。台湾で買ってきたんだけど、最近よく飲んでるんだ。」
と紫苑が教えてくれた。
「じゃあ各自分かったことを報告ね。私から言ってもいい?」
紫苑が口を切った。
「はっきり言って何も分かんない。ただ、うちの親の態度から思ったのは、親たちは何か知ってると思う。でも事情があって私たちには話せないんじゃないかな。あと、こないだ親から秋までは部活の大会とか出てもいいけど、秋になったらやめた方がいいんじゃないかって言われた。これも関係あるかも。」
紫苑の両親は、娘を溺愛している。言葉や態度に出さないように努めても、娘を心配する気持ちが紫苑には伝わってしまうのだろう。
「じゃあ次は私ね。」櫻子が話し始めた。
「四月の事件のことなんだけど。四間道の話では、彼の父親が何か知っていたみたいなの。今、探してみているんだけど、家にもあんまり帰らないで石を探してるみたいで、難航してる。会って話を聞けたらまた報告するね。それと、うちの親は、私が退院した後もずっと焦ってる感じがするの。紫苑ちゃんの言ったこと、あたってると思う。」
娘が事故に遭って焦るのは分かるが、無事に退院した後も焦り続けているというのは謎だ。そして、事故の元凶と言えなくもない四間道の父親に会って話を聞こうとしている櫻子の豪胆さに鈴蘭は恐れ入った。探すのは人を使ってやっているのだろうが、会って話を聞くのは櫻子自身が出向く必要があるだろう。
椿は、婿をとれと言われたことが気になるという。
「火生家では、本家の子供は生まれる前から婚約者が決まっててね。付き合いのある家同士で、今度本家に子供が生まれたら、男の子なら何々家の誰々と結婚させよう、女の子なら…という風に、決めておくの。私の両親もそれで結婚してる。
私も生まれる前から婚約者がいたらしいのだけど、気が付いたらその話は無くなってた。十八歳までに婿をとれと言うなら、婚約者を決めておく方が合理的じゃない?元婚約者に連絡をとってみたんだけど、本家から突然この話はなかったことにしてくれって言われたっていうの。」
婚約者という言葉が鈴蘭の胸にひっかかった。何かが思い出せそうな気がする。懸命に考えていると、
「鈴蘭はどう?風生家のつてで何か分かったんじゃない?」
と椿に聞かれたので、小さなおじいさんの正体について話した。
「あとはうちの書庫をもう少し調べてみるつもり。怪しい茶箱があったから。」と締めくくった。
「今のところ分かったことは、あの宣告には総社神宮が関係してるってこと、親たちは何かを知ってて隠してるってことくらいか。結界については何も分からないね。」紫苑が総括してくれる。
「櫻子は例の父親の捜索、鈴蘭は引き続き書庫の探索をしてもらって、紫苑と私は親から情報を引き出せるように頑張るって感じでどう?」
椿の提案にみんな頷き、集まりは解散となった。
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