「♬きーよしーまーさよしー」


 その週の日曜日。

 冬着に染まった庭の枯れ木を見ながら、我が息子はご機嫌で歌唱中だ。


「はう、もうクリスマスは終わったよ」


「うん。公園のきよちゃんとまさちゃん兄弟にお歌プレゼントしたの!」


「なるほど。歌詞だけオリジナルなのね」


お友達にうけたらしく、それをえらく気に入っている。


「ふふふ。はうは作詞もするんだね。将来はままみたいな作家かなー?」


 パソコンで作業中、急に地味な痛みが首のまわりをおそって、あたた……と肩を回す。


 

 最近疲れが。


「まま、あたまいたいの?」


 とてとて短足で駆け寄って来たはうの頬に指先で触れた。


「はう、心配してくれるんだね。だいじょうぶだよ」


「ほんとうにだいじょうぶですか」


「聖さん」


 今日はお仕事がお休みの夫がココアの入った二つのマグを持ってやってきた。


「最近お疲れですよね。締め切り前で」


「はい。まぁ……」


「疲れると、いろいろと厄介な思考も襲ってくると思います」


「あは……。お見通しだね」


 今朝片づけたばかりの毛布にからまり遊びまくるはうをバックに、しんみりな夫婦だ。



 かつて言われたいやなこと。

 いやなのに、自分の声と合体していまだに自分を叱る、いやなこと。


わたしも夫も、お互い生まれが複雑な家庭環境のため、そのへんは通じている。


「やはり、休みの日はなるべく家にいたいな……」


 考えこむ聖さんを見て、ピンとくる。


「今度のお休み、なにか予定があるの?」


「ええ。実は友人に仕事の助っ人を頼まれていて」


 聖さんの友人と言えば、一人、よく会話に出てくる方がいる。


「あのさわやか系の書店のお兄さんですよね。大学からの同期っていう」


「はい。しかしやはり今回は断ります」


ふぅと長く息を吐いて、わたしは首を横にふる。


「行ってあげて、聖さん」


「しかし」


「一日くらいだいじょうぶ。聖さんがお仕事のときはちゃんとはうとふたりでやってるんですよ?」


「それは……知っていますが」



 手の拳のよこでちょこんと、その大きな手に触れながら。



「あたしは……お友達や後輩さんに慕われる聖さんが、好きです」


「……」


 自分でつくった毛布のトンネルの入り口が小さすぎて入れず、はうが唸り声をあげる。



「いえ、べつにその、変な意味じゃないよ⁉ 愛情までつけてくださいとか、そういうこと言うつもりはないっていうか」


 とりつくろえばつくろうほど焦ってきて、禁句の事実まで口にしてしまう。


「もともと契約結婚だし……」


「ふゆさん……」


 ばたばたばた。

 入り口に頭をつっこんだもののぬけなくなってはうが足をばたつかせる音が響く。


「そうだ! だったら次の日曜、はうとY書店さん行っちゃおうかな。働いてるパパを見られるいい機会だし?」


 人のいい夫だが苦笑して手を前に出した。


「それは……却下で。お見せできるものでは……」


「えー?」


 すぽっと、はうの頭が無事脱出した音がこぎみよく響いた。

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