第2話 らぶらぶら

 柊聖夜さんは、私の夫。

 勤め先の警察署に、今日も出かけていく。


「いってきます」


 手袋につつまれた片手をあげて。

 わたしは胸のあたりで手をふってそれを見送る。


「——あ」


 だがこの日は、少しだけ違った。


 夫がふり向いた。


 くすりと笑うと、近づいてきて、思い出したように身をかがめて。右手の手袋をとると、頬のあたりに手を差し出し——え?

 まさか唇を重ねられるのでは――⁉


 いや、ここで?


「ふゆさん、こめかみに霜のかけらが」


 手の温度で溶けた水にその手が濡れている。


「ごめんなさい。手が……でも、ありがとう」


 わたしは笑った。


 静岡で霜かぁ。今年の冬はつらそう。


「帰ったらあたたまりましょう。はうはまだ寝ていますか?」

「いつも一番に起きるのにね。今日の寒さで寝坊してるみたい」


「そうですか」

 

 目を細めて笑うと、今度こそ夫はそっと背中を見せる。


「では、いってまいります」

「はい」


「……あの」


 ん?


 またひょいと横顔が見えたぞ。


「よければ後で、鏡を見てみてください」


「え。なんかおかしい?」


 寝起きは心当たりありありですが。



 顔を赤らめて聖さんはそっとつぶやく。



「クリスマス。ハウへのプレゼントに気をとられていて……まだなにも贈れていなかったので」


 ……?



 洗面所に戻って鏡を見たら、雪の結晶のイアーカフが耳についていました。


 照れ屋さんで優しい夫です。

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