第2話 らぶらぶら
①
柊聖夜さんは、私の夫。
勤め先の警察署に、今日も出かけていく。
「いってきます」
手袋につつまれた片手をあげて。
わたしは胸のあたりで手をふってそれを見送る。
「——あ」
だがこの日は、少しだけ違った。
夫がふり向いた。
くすりと笑うと、近づいてきて、思い出したように身をかがめて。右手の手袋をとると、頬のあたりに手を差し出し——え?
まさか唇を重ねられるのでは――⁉
いや、ここで?
「ふゆさん、こめかみに霜のかけらが」
手の温度で溶けた水にその手が濡れている。
「ごめんなさい。手が……でも、ありがとう」
わたしは笑った。
静岡で霜かぁ。今年の冬はつらそう。
「帰ったらあたたまりましょう。はうはまだ寝ていますか?」
「いつも一番に起きるのにね。今日の寒さで寝坊してるみたい」
「そうですか」
目を細めて笑うと、今度こそ夫はそっと背中を見せる。
「では、いってまいります」
「はい」
「……あの」
ん?
またひょいと横顔が見えたぞ。
「よければ後で、鏡を見てみてください」
「え。なんかおかしい?」
寝起きは心当たりありありですが。
顔を赤らめて聖さんはそっとつぶやく。
「クリスマス。ハウへのプレゼントに気をとられていて……まだなにも贈れていなかったので」
……?
洗面所に戻って鏡を見たら、雪の結晶のイアーカフが耳についていました。
照れ屋さんで優しい夫です。
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