第一章『英雄の後腐れ』 19フィルム目『幹部会談』

マーク「……誰も来ていませんね。おめでとうございます僕たちが一等賞です」


ーーカチカチカチカチカチカチカチカチカチカ


 現状弱者として過ごすしかない2人は顎を愉快に鳴らしながら弱々しい膝を何とか立たせている。


女の子の声「ああ!?テメーが一番な訳ねえだろうが!!一等はこのアタシのもんだ!」


 誰もいないと思えた部屋から女の声が傲慢に叫び散らしている。明らかに異端な空間中で4人のうちマークのみが穏やかに歩き、部屋に並べられた6つの椅子から一番手前の席へ座る。上司が座るのを確認したオスカーは少し出遅れながらマークの後ろへ行き腕を組む。


ハロウィナ「無視してんじゃねえッ!!ぶっ殺されてえか?」


マーク「それより、早く姿を見せてくれませんか?ハロウィナ。あなたの待っていたお客様も既にお見えしていますから。」


 その言葉を遮る様に天井からワープホールの様な円形のモヤが現れる。

 何が出たかと観察していると中から先まで叫んでいた声の正体であろう女が出てくる。子供かと思えた容姿の女は腰まで伸びる青い長髪をサラサラと揺らしながら可憐な顔をしており本当に戦えるのか怪しんでいると、ギザギザした歯を顕にしてこちらを睨む。



ハロウィナ「テメーがアリスに殺された野郎だなあ!?今アイツは何処にいる?!答えろォッ!!」


マーク「まだ殺されていませんよ…それに英雄についての話は全員が集まってからやりますから、まだ落ち着いて待ってください。」


 マークが子犬を庇う様に口出しするが女は気にしない様子でリーフ達に噛みついた。


ハロウィナ「うるせえッ!サッサと答えろ、アタシが今すぐに向かってぶっ殺してやるからよお?!」


オスカー「……チッ。オイ女ァ!!今コイツが止まれって言ったのが聞こえなかったのか!?ああ?」


 オスカーが女の近くまで寄り肩を掴もうとする。しかし触れようとした指が弾き飛ばされ狼狽える


ハロウィナ「その薄汚れた汚ねえ手で誰に触ろうとしてやがる、ブッ殺すぞこのデブがァッ!!」


 女がオスカーに留めを刺そうとした時、マークが間に入る


マーク「ハロウィナ…オスカーが先に手を出そうとした事は謝ります。ですが、それ以上攻撃をしようものなら…貴方をここで殺します」

 

ハロウィナ「気安く名前呼んでんじゃねえよ、殺すぞ」


 両者の間に殺意が立ち込む。それを閲覧していたリーフ達は恐怖で震えることすら出来なかった。何となくだが理解していたのだ、ここで少しでも動けば殺されると


ーーコツ コツ コツ


優しい老人の声「お止めなさい。」


 入り口からまた新しく声が聞こえる。掠れながらも優しさを感じさせる声から老人であろうか、しかしおかしな事にその声を聞いた瞬間2人の間で揺らめく殺意がパタリと無くなっていた


ハロウィナ「クソジジイ……邪魔してんじゃねえ!!アンタもぶっ殺されてえのか!?ああッ?!」


ラービット先生「ハロウィナ、あと少しで全員が集まりますからあとちょっと落ち着きなさい。それとマーク…貴方は全員を冷静にさせる役割です、貴方自身それを理解しているのですからしっかりなさい。」 


 神父の格好をした老人は金髪が脱色した髪色をしており、孫を注意するのとは少し違い、丁寧に幹部の2人を叱った。


マーク「申し訳ございませんラービット先生。それに態々タスクまで使って助けて頂いた、この恩は後々返させて貰います」


 マークは再びニタニタと妙な笑顔の表情を作り先生と呼ぶ老人へ深々と礼をして、先の椅子に座る。


オスカー「クソッ…あの女、俺の指を吹っ飛ばしやがったぞ」


マーク「そう怒らないで下さい。オスカーならすぐに治るでしょう?」


 ついさっき吹き飛ばられていたオスカーの右手の親指と人差し指は既に新しい芽を生やしていた。

 その横で指を飛ばした張本人は叫んでいた口を閉じ、先生に宥められている。


ハロウィナ「んで?ジジイ、さっきの全員来るってのはいつに何だよ。大体アイツが来るのは遅くなるじゃねえか」


ラービット先生「ああ…もう来ていますよ。ボスを連れてね」


 唐突に放たれた『ボス』という単語に全員が驚きながら入口の方を向いた。

 そこに居たのはボスではなく最後の幹部『マーガレット・ホリック』長身の女性でセミロングまで伸ばした紫色の髪が特徴的な奴。その姿を見た幹部以外の部下達は急な緊張がほぐれたように溜まった息を吐く。



ボス「ーー25年前だ」



 部屋の一番奥から声が聞こえる。誰も居なかった筈の一番奥の席にボスが既に腰掛けており、隣には黒い鎧を纏った何者かが立っている。全員がボスとその直属の部下である右腕を連れているのを見て急いで席に座る。


ボス「25年前、英雄が現れた。地獄が普遍的となる世界、数多といた理不尽と最強を1人で屈服させた絶対的理不尽の英雄…その化け物が姿を消して15年が経った。誰もが死んだのだと、そう考えている今…英雄が再び姿を現した。タスクも使えず、誰に殺されてもおかしくない哀れな姿で登場したのだ…聴け。我は誓おう、英雄をこの手で殺し、絶対を越えた神と成ることを」


 ボスの演説に全員が意志を固めたと言わん顔で微笑んだ。その隙に会談を始めようとマークが話し出す



マーク「さあ、全員が揃いましたね。とは言っても普段はいないボスまで今回は来てくれたのですがね、まあ良いとしましょう。それでは幹部会談を始めましょうか」


 マークが立ち上がり仕切ろうとするが誰も先に口を開こうとするものは居なかった。

 そんな30秒と少し続いた無駄な静寂をハロウィナが破る。


ハロウィン「会談なんて要らねえよアタシがコイツらからアリスの居場所を聞く、そんで速攻向かってぶっ殺せば良い。それだけだろーが?」


マーガレット「何を言っているのかしら?英雄アリスを殺すのはアタシがやるべきだわ」


 ハロウィナと意見をぶつけたのは最後に来た幹部であるマーガレットだった。


ハロウィナ「ああ?お前アリスに恨みがある訳でもねえだろうが!どーせあれだろ、ボスに褒めて欲しくて殺したいなんざほざいてんだろーが」


 千切られた静寂は争いを生み出し少しづつヒートアップさせて行く。


マーガレット「それだけじゃないわ」


ハロウィナ「だったら何だ!?サッサと言えやババアが!」


マーガレット「あら、私はまだババアなんて言われる歳じゃないわ。それともケツが青い処女のガキにはそう見えちゃうのかしらね」


 ハロウィナが顔に血管を浮かばせながは卓上に立ち上がり、マーガレットの前まで進み睨みつける。


ハロウィナ「テメェ……絶対殺してやるよタスク、AC/DCッッ!!」



ボス「とめろ。デルル」


ーーパァァンッ


 ボスの隣にいた鎧が超高速で2人に近づき吹き飛ばす。


ハロウィナ「…テメェも殺されてえのか!?」


 ハロウィナがさらに攻撃をしようとしたがタスクが発動できずマークの方を睨んだ。


マーク「ザ・ポリス…もう貴方がタスクを使えることはありません。分かったら2人とも早く座ってください」


ラービット先生「ハァ…すぐに喧嘩するのは何とかしてほしいな。それで?マーク、何か言いたい事があるのでしょう」


 先生の方を見てマークは小さく頷き2人が座ったのを確認すると口を開いた。


マーク「僕はマーガレットが行くのが正しいと思います」


ハロウィナ「何ィ!?何でだよ、アタシがアリスを恨んでるのは全員知ってるだろうが!?」


ラービット先生「…ハロウィナ」


 当然、ハロウィナは納得いかない顔で反論したが目の前に座る先生に睨まれて黙ってしまう。


マーク「宜しいですか、今回英雄達が向かっていた場所は麻薬を育てていたカリフォルニア州のサンフランシスコです。ここの担当であるリーフとジェクター…そして今は居ませんがフンゴは全員マーガレットの部下です。責任は上司であるマーガレットにあるんですよ。」


ハロウィナ「だからコイツに任せるってのか?」


マーク「そうです。何よりハロウィナがアリスと会っては破壊規模が大きくなり過ぎてしまいます。それも考慮してここはマーガレットに任せるべきです」


 それでも納得いかない表情のハロウィナはなんとか自分がアリスを殺せる様に条件を出した。


ハロウィナ「……チッ。いいか?3回だ。3回英雄達と戦った倒せなけりゃアタシが直接向かうぞ」


マーク「ええ、それで構いません。皆さんもそれで良いでしょう?」


マーガレット「私は構いませんわ。」


 意見が一致したかと思われた時、ずっと黙って見守っていた先生が口を開いた。


ラービット先生「少し…宜しいかな。」


マーク「先生?…ええ、どうかしましたか?」


マークは意外な発言者に驚いたがすぐに肯定してみせた。


ラービット先生「先程マークはこう言ったね、英雄たち…と。」


 先生の指摘であることを予感した幹部達全員の間に緊張が走る。その一瞬の静寂を突いたのはやはりハロウィナ。


ハロウィナ「1人じゃねえのか!?オイどーなんだよお前等、サッサと答えやがれ」


 リーフ達に詰め寄るが、2人は恐怖に縛られて上手く話す事ができなかった。それを察した先生はリーフ達の元へ駆け寄って何かを囁いた。

 その瞬間。2人の中に蔓延っていた恐れはスッとなくなりサラサラと話せる気がして、ジェクターから答え始める。



ジェクター「…はい、英雄は1人の仲間を連れていました。そいつは変身する事ができる能力ですが英雄の隣にいれるとは思えない程の実力でした。」


マーク「変身……なるほど。使い方によっては厄介ですから英雄が上手く利用しようとしてるのでしょうか」


ハロウィナ「んな事どうでも良いんだよ、それよりアリスはどうだったんだ?」


リーフ「英雄はタスクが使えていませんでしたが何か糸を操る力がありました、恐らく誰かのタスクを借りているのだと思われます」


 2人の話を聞いてボスが少し微笑んだ。


ボス「クックック…タスクの使えない最強とタスクを使える弱者。良いコンビではないか。聴け、命令だマーガレットよ…必ずや英雄達を殺すのだ。」


 ボス直接の命令にマーガレットは高揚した表情で甘く答える


マーガレット「はい…貴方様の為であればどんな事もしてみせましょう。英雄も…この手で殺してみせましょう」

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