第一章『英雄の後腐れ』 17フィルム目『2度目のファースト』

アリス「サバイバー…うん、良い名前じゃないか。少年、意外とセンスがあるじゃないか」


アーサー「うっせ、テメーが言うと馬鹿にしてる感じがするんだよ。」



 2人と少し離れた1人との間に少しの静寂が流れた、それから10秒ほどか、周囲からチリチリと火が伸びている音が聞こえてくる。その脅威を感知してかジェクターは二重になった顎に汗がどっぷりと溜まっている


ジェクター「1つ…先に言っておく。私は負けるのが怖くて汗をかいてるんじゃない、決してな。ただ貴様らを殺せば少し忙しくなると思ってな…ここで役目を果たせば更なる高みの立場に立てる。だが私にとって誰が上とか私が下とか、そんなのはくだらんのだ。故に汗をかいてるんだ…貴様を殺す事自体は早朝にカーテンを開くことくらいどうだってないんだ。」


 ジェクターがタスクを出す。右腕からミリミリと小さな木が生えてきた、しかし葉を落とす事はまだしていない。落とした時…この勝負に決着がつくと分かっていたからだ


アーサー「あーそうかよ、もう分かった。分かったから黙って殴られやがれッ!」


 アーサーが低姿勢で接近をする、同時にジェクターが葉を散らす、アーサーは自身に触れる葉は全て避け硬い拳をジェクターの顔面に目掛けて勢い付けた。腕を大きく振りかぶったその時…ジェクターとはまだ距離が1mと少しあった所…右脚が何か引っかかる


ジェクター「貴様、気づかなかったのか?このホテルはこれまで私が何枚もの葉を散らしていた場所だ、こう言う足元にだって空間は当然ある、なあ!分かるか?貴様はの攻撃は私に届かない…もうお終いなんだッ!」


 ジェクターは勝利を確信しアーサーの少し俯いた顔を覗き込む。そこから見えたのは未だ何も問題ないと言った堂々した表情。


アーサー「気づいてねえのはお前だよ。俺のタスクは、身体を自在に変形させるッ!」


 アーサーは粘土の足りないところを他の部位で補充ように体全体から筋肉を少しずつ持っていき右腕を長くし、切り落として短くなっている左腕とは異常なまでにアンバランスな両手へと変形させる。


アーサー「これならテメェの顔面をとうとうぶん殴ってやれるぜ……オラァッ!!」


ジェクター「何ィィッ!!?ヤメろォッ!!」


 ゴガァッ…鈍く硬い音が少しの間響き、男がぶっ飛び倒れた音が続いて聞こえた。


アーサー「マジに強かったぜ…ジェクター」


 アーサーが久方ぶりの勝利にじっくり喜んでいると血に塗れた何かがゴロゴロと転がってきた。何かと思い拾うと見慣れた形の肉塊で、嘘と信じたかったが自身の左腕とくっつけると太さがピッタリ合っている。


アリス「君の右腕でしょ?ソレ拾っておいたのだよ、あ!感謝は後でしてね。今はサッサと逃げるよ」


 アリスがジェクターを拾い上げ、窓から飛び降りる


アーサー「オイ…ここ何階だと思ってんだ?40階はあったぞ…こんなとこから落ちたら死んじまうぞ」


 アーサーは躊躇っている間に左腕をくっつけ、両手を取り戻してから下を見てみるが益々怖くなる。


……ウーーー ウーーー ウーーー


 うずくまっていると外からサイレンの音が聞こえる、それに乗じてか更にアリスの降りてくるよう諭す声がうっすらと聞こえてきた。


アーサー「あ゛ーッ!!分かったよ…死ぬ時はテメェもぶっ殺してやるからな!!」


 アーサーが飛び込む。40階もあればやはり高かったが落ちてみるとみるみる早さは上がっていき直ぐに大地が目の前に現れた。


アーサー「ウオオーーッ!!?オイ!オレ死なないよな!?」


 地面と当たる直前に恐怖がプライドを超えるほどに大きくなり目を瞑った……当たると思われてから数秒が経過したが何が起こるわけでもなく目を瞑り続ける。


アリス「ーーねん!少年!早く起きたまえ、全く…遊んでる暇が今だにあると思わないでくれ」


 アリスが宙に浮いてジタバタと泳ぎ続ける間抜けなアーサーを眺めながら糸を解く。急にストッパーが切れて地面と1mもないところから落下を続行した。


アーサー「グガ!…いってえ。つーか、オイ!糸で助けてくれるんなら最初っから言っておけよ!!」


アリス「だーかーら…怒るのは後、褒めるのもね!それよりも今は車に乗ってゴーホーム!なのだよ。」


 アリスはジェクターをそっと地面に置いて後ろを向くことも無く走り始める。まだまだ文句は言いたかったが置いてかれては意味が無いので後ろを渋々ついて走った。



ーーピーッ ピーッ ドッ…バタンッ!


 街から少し離れた所にある家にアリスとアーサーがやっと辿り着く。


アーサー「あーー、やっと着いたー!」


 アーサーが大きく欠伸をし、目元に涙を作りながら安堵した声で叫ぶ。


アリス「本当にやっとなのだよ…と言うかここでの目標は既に達成したからここにいる必要も無くなってしまったのだがね」


 アリスの言葉にゲッ…とした表情で顔を醜く歪めて肩へしがみついた。


アーサー「オイオイオイ…ここまで頑張ったってのによお?もう休憩終わりってか?ふざけっんな!なあ、頼むぜえ、少しは休みてえよお」


 肩を揺さぶるアーサーを引きづりながら家の鍵を開けて中に入っていく。


アリス「安心したまえ。次の目的地もまだ決まっていないからね、最低1週間はここに滞在するよ」


アーサー「マジか!!言ったな?約束だぜ、携帯もちゃんと買えよ…飯も大量に食わせろ!」


 アーサーは大きく笑顔を見せてアリスの後ろに着いて上着を脱ぎ捨てる。


アリス「ああ、約束だ。でも今日はお風呂に入らせてくれ。その間に家の探索でもしてると良いよ」 


 アリスが服を脱ぎながら迷わず浴室へと向かって行った。約束と新居に気持ちを昂らせ自分の部屋がどれかをまず探索しようとしたら風呂場の扉が開きアリスが呼びかけてくる


アリス「少年!さっきの良い戦いだったよ。勝利おめでとう。」


アーサー「褒めんのがおせーよ…!」


 上がろうとする口角がバレないように抑えながら強がりを吐く。扉が閉じてシャワールームに入る音が聞こえると静かに、そして大きくガッツポーズを取った


アーサー「ッッしゃあ!」

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