第一章『英雄の後腐れ』 16フィルム目『サバイバー(生存者)』

アーサー「どこだ…?どっから来やがるッ!!」


 アーサーは木の葉が重なる音すら聞き逃すことがない様耳を澄ます。


ーーサッ…


アーサー「そこかァッッ」


 ダガガガガガッッッ…微かに聞こえた音を頼りにラッシュを決め込んだ。しかし、敵に当たることはなく壁打ちで終わってしまう。


ジェクター「おいおい…落ち着いて考えろよ。今貴様が置かれている状況をな…」


アーサー「あ゛ぁ?テメェに勝つ方法が分かって麻薬の居場所も掴めた、有利なのは俺だけだ!!」


ジェクター「やれやれだ…冗談だと嬉しいんだがな、しかし本気で言っているんなら残念だ…さっき貴様を褒めた私を後悔しているよ。なあ、よく考えろよ、私達お互いの今やりたい事、要するに勝利条件ってやつをな」 


アーサー「条件……?俺たちは麻薬を出回らない様にしたい、お前らは麻薬を育てたい。それがどーした?」


 ジェクターは何処からともなく嘲笑した声でため息をつく。たった一息だがそれだけで馬鹿にした表情をしている事は分かった


ジェクター「そう、俺たちは麻薬を育てられれば良い。その為ならこのホテルが無くなろうと構わんのだ、タスクさえあれば良いのだからな」


アーサー「まさかッ!?そうなのか、俺だったのか…?追い詰められているのは…ここでテメェを逃せば、また麻薬を作られる。だが今のお前を捕まえる方法は俺にはない…」


 アーサーは話し相手の方向がわからないなりに壁を向いて叫び散らした。


ジェクター「そう言う事だ…しかしまだ納得のいかない事があってな…さっき貴様は私に勝つ方法が分かった。そう言っていたな。それは違う、貴様は私に勝つ事すらも出来ずに終わるんだよ」


(何言ってやがる?コイツ…舐めやがって)


ーーキャラキャラ


 アーサーは足元から聞こえる金属音特有の耳を傷つける鋭い音につい下を向いてしまう。そこにあるのは数本のナイフが重なった光景だった


アーサー「ナイフ…さっきまでこんな所には無かった筈だぜなのに……何でこんな所まで動きやがった…!まるで磁力や引力に引き合わせられた様に勝手にここまで動きやがったのか」


ジェクター「何度も言う様だが…タスク同士の戦いに常識があるとは思うな。もし物が勝手に動いたんならそれは磁力なんて自然の法則ではない…タスクを経由した作戦の一つなんだよ」


ーーガタタッ


 下半身が妙な感覚で包まれる。アーサーは足元に出来た空間に飲み込まれていた。

 勝利を確信していた故の怠慢…。勝手ながらの行為が油断を呼んでしまった。それがこの戦いにおける敗因と言えるだろう。


 脚だけが包まれていた冷たく寂しさを感じる感覚は既に腰まで抱き締めている。


ジェクター「貴様…さっき私が葉を何枚も散らしたのは何故だと思う?貴様に直接当てるためか…?嫌々、目眩しのためだ、もしたった一枚を散らし床に空間を作れば貴様はすんなりと避けその後も警戒を怠らなかっただろうな。しかし…それが100枚を超える大群となれば話しは別だ、100枚のうちにたった1枚が無くなろうと気づけるはずがないからな。それか…もしかすると気づくことはできたかもな、まあ貴様が警戒をしていればの話だがな」


 アーサーは上半身を必死に動かして抵抗をするがタスクの条件にただの力で対抗することはできず直ぐに丸々閉じ込められてしまう。

 ジェクターが袖の隙間に作った空間から小型爆弾を取り出し壁に設置し破裂させる。自身も壁の隙間へと身を隠し爆弾による被害を受けずに済む


ーーガガラララララッッ


 爆弾によって崩れた壁はアーサーのいた隙間に封をするように壊れてゆく。




アーサー「ーーオイッ!!出しやがれ!クソッ…!!どうなってやがる、入る事だけじゃ無く中から出る事も出来ねえのか…?」


 アーサーは内心諦めながらも屈服をする事が怖く無理矢理にでも拳を動かし続ける。その内少しずつではあるが瓦礫は動いていく、本人は動いている事を知る術はなかったが助かる事を信じて震えた拳を前に突き出す。


アーサー「ハァッ!!ハァッ!!ハァッ!!…もうッ無理だ…俺はこっから出られない…。」


 ちょっとした絶望に負けまいと意地を見せていたアーサーも数分が過ぎた頃には諦めかけていた。

 疲労した身体を弱った精神が無理やし寝かしつけ立ち上がろうと奮起しようと下半身から動かない。


(これで死ぬのか…)


アーサー「クソがぁっ!!ふざけんな…!ここで死ぬだあ?な訳ねえだろ。こんなもんぶっ壊してやるッ!」


 アーサーの体が少しずつ変形する。右腕だけが異様に膨らんだ奇妙な体つきで大きく振りかぶる、


ーーバァァァンッ!


 当たった瞬間、今までとは明らかに違う大砲とも捉えられるほどの轟音が響いた。


アーサー「オラァッ!!ブッ壊れろォッ!!」


 何度も振りかぶり叩き続ける。そして4回目か…とうとう壊れる音はしなくなり空振りをする。あまりの衝撃に瓦礫が全てぶっ飛んでしまったのか


アーサー「ハッ…ハハッ!やってやったぜ…!!ッと、サッサと追いかけねえとな」


 アーサーは直ぐ様空間から脱出をし、つい先ほど見慣れた光景を再び目に映す事が出来た。

 …しかし、何か違和感がある。


アーサー「何だ…!?暑いぞ…どうなってんだ、異常なまでに高い熱気だ!!」


 アーサーは冷や汗でびっちょりとしていた服がまた違う汗に塗り替えられているのを感じた。

 あまりの暑さに周りの様子を見ようと窓を開き顔を出して外を見下ろす。


 そこから見えたのは地獄とも思える程の光景。豪華に装飾されていたホテルにボウボウと火が燃えがっており、既にこの階層の近くにも火は渡っている。


アーサー「これは…!?あのおっさんがやりやがったのか!?証拠隠滅の為に…!!態々ホテル火を…ッ!」


 そう思っていると背後から物音を聞き取り警戒してバッ!と振り向いた。

 そこにいたのはまさかのジェクター本人であった


アーサー「テメェ…何でここにいやがる?火をつけたんならサッサと逃げればよかったのによお。」


 ジェクターは予想外とでも言わんばかりに驚いた表情でアーサーを見つめてチリチリと乾燥した唇から言葉を発した。


ジェクター「何…?私が火をつけただと?馬鹿を言うなッ!!火をつけたのはあの化け物だ!!」


 ジェクターは異常なまでに驚いた様子で叫んだ。もはや先までの大人としての余裕ある立ち振る舞いも無くそれどころか怯えてるように見えた。

 すると小さな背中の更に向こうに火のついた階段からこちらへと向かってくる見慣れた男が現れた。


アリス「おやおや?おーい、少年!無事であったか…。それなら何よりなのだよ」


アーサー「お前…!敵を1人で倒せたのかよ!?…つーか、まさかこの火をつけたのってよお…?」


 アリスは自身の頬を指差し小さく頷く、


アリス「ああ!私なのだよ。麻薬がここにある事は分かったからね、燃やさせてもらったのだよ。でも驚いたなあ、こんな行為が敵を倒すための重要な行動になるんだから」


アーサー「あ?重要…何言ってやがる。」


 アーサーの疑問にアリスは少し遠くの階段を指差した。そこには火がついてチリチリに砕けていくタスクの葉があった。


ジェクター「貴様ァッ!?イカれてんのか…!!これじゃあタスクがまともに使えなくなったじゃねえか!」


 ジェクターが充血した目を大きく開き怒り叫んだ。


アリス「…と、言う事なのだよ。彼のタスクが葉を媒介にするものだったからね。火をつけて仕舞えばもう何も出来ないと言うわけさ」


アーサー「なるほどな…だったらアイツはこの火が着いてない最上階で戦うしかねえっつーわけだ!!」


アリス「そう言うことなのだよ、どうする?君が望むのなら1人で倒させてあげるけど。」


 アーサーは何も言わず前へと出る。察したようにしてアリスが後ろへ下がり腕を組んだ。


ジェクター「舐めるなよ…火がここまでくるその前に、手前らブッ殺してやるッ!!」


 大体3mかの距離を取って両者が構える、最終ラウンドが始まったと思われた時アーサーが楽しそうに声を荒げる


アーサー「なあアリス!名前…決めたぜ。俺はコイツを、このタスクをサバイバー(生存者)!!そう呼ぶ事にする。」

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