第一章『英雄の後腐れ』 7フィルム目『ボーン・トゥ・ルーズその②』
アーサー「なんだぁ?アイツの周りに浮いてるやつはよ」
アーサーがフンゴから1mの間隔で周りに巻き付く様に浮かぶ糸を注意深く見ながら構える。細身のフンゴに対し双璧と称するに値する体格を持った2人はその体格差に見合わず敵の能力を恐れていた。
アリス「よく分かんないね…だから、今はその正体を知りたい。」
アリスは少し後ろに下がりながらしゃがむ体勢をとり、アーサーの体に隠れる様に体を縮ませる。
アリス「能力が分かるまで私は後ろで指示をする。その間、君は死なない程度に頑張ってくれ。」
ーーコイツからぶっ飛ばしてえ…!
アリスの無茶な指示に敵に背を向けてでも殴りかかりそうになったが行動を起こす直前で止め、ため息をこぼしつつも承諾した。
フンゴ「無駄な作戦会議はもういいかな…あ、なんで僕作戦会議してるの待ってたんだろ……計画立てられたら勝て無くなっちゃうのに…もう無理じゃん…」
ブツブツと独り言を流すフンゴにアーサーが近づく。周りに浮かぶ糸を避けて左脚から繭の中に入ろうと踏み込む…が
ーーガタッ
アーサー「なっ!何ィ!?」
アリス「少年ッ!!!」
繭の中へ入ったアーサーの左脚が…嫌、正確にはその時アーサーの左脚は存在していなかったのだが…。ともかく無くなっていたのだ。
片足の失った体は膝から前へと転ぶ様に崩れ落ち、左膝が地に着く頃には、そこも繭の中に入ってしまい無くなっていた。
アリス「その繭から脱出するんだッ!右足を使って後へ下がりたまえ!!」
後方からアリスの叫び声がする。アーサーは訳の分からない現実に呆然としていたがその声を聞いて直ぐに地面を蹴り、繭からの脱出をする。
アーサー「うおおおおおッ!!?脚が、膝が戻っている。無くなっていたはずの部位がまた元通りに『くっついた』のかッ!?」
体の無事に安堵の叫びを発するが、直ぐに冷静になり目の前の敵に再び注意を置いた。
フンゴ「ここまで来といて…逃すとか無理じゃん……君には今、ここで、すぐに死んでもらうよ。」
フンゴは右手に指揮棒が魔法の杖でも握った様に両手を前に曲げてポーズを取り、優しく丁寧に奏でる様に両手を動かす。
ーーササッサッサササ…
繭として周りに浮いていただけの糸が幾本もの槍を形作りアーサーへと目掛けて攻撃する。
アーサー「うおっ!?クソッ!さっきっからどういうタスクなんだ?地面から攻撃したり這い出てきたり、体を消してくる力もなんなんだあ!?コイツの『これ』はよぉ!!」
フンゴ「いや…君のソレも何?動き方気持ち悪くすぎじゃん…それが君のタスクなわけ?」
アーサーは文句を叫び垂らしながら襲いかかる糸をタスクで変形しながら器用に避けていく。
その様子をアリスが見ていて何かに気づく。
ーー繭から糸を形作り攻撃をしている時、周りの繭は縮んでいる…?ふむ…やっと理解して来た!もう大体分かって来たよ。
アリスはしゃがみながら地面から幾つかの小石をとりフンゴに向かって投げつける…一つを手元に残して
フンゴは投げられてくる小石に少し驚くも繭の中に入った途端、石は姿を消して繭の後方から飛び出る。
フンゴ「無機物なら能力の影響を受けないと思った?そんな訳ないじゃん…僕のタスクは無敵なんだから…。」
またしても鼻に付く言動をしながら少し止まっていた攻撃を再開する。
ーークソッ!腹立つ野郎だが実際コイツのタスク無敵なんじゃねえか!?…つーか、アイツは後ろでずっと何してやがる!見ているだけだと思っていたが急に小石を投げつけやがって…何をしたいんだよ!
アーサーは身体的にダメージを受けていた訳ではないが、立て続けに起こる不可解な出来事や、受けたらどうなるかも分からない攻撃を避け続ける事に精神的に削られていた。
アリス「ーー少年、やっと分かったのだよ!彼のタスクの正体。その弱点もね!」
アリスが後方から出て来て見解を述べ始める、その声を聞いてフンゴの肩はピクッと動いた。
アーサーはやっと来た助けに精神的に削られていた疲労感はすぐに吹き飛んだ。
フンゴ「弱点…?さっきいったじゃん…そんな物は僕の『ボーン・トゥ・ルーズ』には『無い』ってね…。」
フンゴは相変わらず弱気な声で自信のタスクに対しての絶対的な信頼を語る。その時…何かがフンゴの真上から飛んできた。
ーーコッ。
フンゴ「…………は?」
上から落ちてきた小石がフンゴの頭に当たった。アリスはさっき投げた小石の他に残した一つの小石をフンゴの真上に行く様に投げていたのだ。
アーサー「当たった…?あの繭の中に入っても消されずに当たったのか!?」
アリス「そう…やはりそうだった!君のタスク、それは…」
『繭に入った物を選別して消滅させる能力』
アリス「そしてその消滅は繭から出ることで解除される!これが君の能力ッ!!選別をして消している…だから意識外の攻撃を防ぐことはできないのだろう?」
アーサー「なるほどな…地面から追跡してた時も地下に潜って自分の周りだけを消して運転していた!そんで地面から少しの繭を出して銃を撃つための通り道を作っていた…」
アリスが解いたタスクの謎を聞いてアーサーは不可解に起こった事柄をひとつひとつ紐解いた。
フンゴ「タスクが分かったからってなに?どうせ君たちじゃ勝てないじゃん…。だから……調子に乗ってんじゃねぇよ…」
フンゴは顔に皺を寄せ怒った顔を作りながらを地面に穴を開け、水に潜るように地下へ入っていった。
アリス「もう分かっていると思うがタスクが分かったとしてもまだ何をしてくるかは不明だからね、充分に注意したまえ」
アーサー「わーってるよ、つってもまだダメージ受けないんだぜ?意外と大した事ねーんだよ。アイツ」
アーサーは余裕だとでも言わんばかりに、にやけた面をして無傷である事をアピールする。
アリス「おや、無傷だからなんだと言うのかね?まさか余裕とでも?だとしたら大間違いなのだよ。彼のタスクは一発でも引っ掛かれば本来なら即死にだってなる能力だ、君は攻撃が当たってもすぐに脱出をすれば良いと思っているのだろうが…もし、攻撃が脳や心臓なんかにあたれば一瞬だとしても助からないだろう。私たちに殺すつもりがなくてもあっちは殺るつもりなんだ、命に保証はできない、だから最後まで気をつけるんだ。」
アーサーは死を目の前にある事の再認識をさせられ口に何か含んでいた様に何かを言いたげな表情だったがすぐに真面目な表情になり周りに注意を払う。
ーーまた甘い考えになっていた。アリスがいるから死ぬことなんざないと思ってた…けど違う、ここで俺がしくじったら殺されちまうんだ…俺だけじゃねえ、コイツも。
2人の間に油断や余裕が無くなった所で、地面から単発的な音が何度かした。地面を通しても聞こえる振動音は回数を重ねるごとにドンドンと大きくなる。
アーサー「なんだ?何をしてやがる…!?」
動揺をしながらさらに用心深く耳を澄ますとその音が聞き慣れている物だと分かった
アリス「これは…バイク?尾行もこれでしていたのだろう」
一つの疑問が解決したと思うとまた新たな疑問が出てくる。
アーサー「だがよお、なんで今になってバイクを吹かすんだ?」
アリス「ここでタスクがバレたから逃げる…とは考えづらいね、私たちをずっと尾行していたのには相当な理由があるんだろう、だから行き先が分かった今、攻撃をして来たんだろうからね」
アーサー「つーことはよ、本当にあんのか?サンフランシスコには…麻薬の育成場所がよお!」
2人は不確定だった予想が現実的になり、思わず笑みが溢れたが、さっきの会話を思い出しすぐに真剣な表情に戻った。
ーーブルルンッ!!ガタガタッ!ガタ!!
地面からバイクが飛び出して来てアーサーたちに飛び込んでくる。2人は左右に分かれ避ける。
フンゴ「逃げる訳ないじゃんか…お前たち程度に…負ける訳が無いんだからさぁ…!」
フンゴは再びバイクを走らせアーサーに向けてぶつかろうとする。アーサーは後ろに避ける、バイクに衝突する事は無かったが、フンゴと連動して動く繭に対応できず頭が触れそうになる。
…が、アーサーもタスクを使い頭を体の中に引っ込めてギリギリで触れずに済んだ。
ーーコイツ、さっきよりも繭の範囲が伸びてねぇか?
フンゴ「やっと気づいた…?本当に遅かったけどね…さっきまではさあ…地下にあるバイクに繭の容量を割いてたから小さかったけど…もう今はその必要も無くなったからね…繭の範囲は1m程度から3mまで広がった…これじゃあもう君たちは避けれないじゃん……」
ーーフム……範囲が広がっただけでなくバイクで機動力を兼ね備え得たのか…かなり厄介だね『ボーン・トゥ・ルーズ』まじで無敵なのかも。けど…
アリス「もう分かった。だから、先に宣言しておこう。この戦い、勝つのは…私達だ!」
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