第一章『英雄の後腐れ』 6フィルム目『ボーン・トゥ・ルーズその①』
ーータッタッタッタ……
夜中、暗い教会の中で1人の青年が聖堂から祭壇までの絨毯に敷かれた道を革靴の音を鳴らしながら渡る。
青年は黒か紫か分からない髪色をしていて下寝癖か下手にセットしたのかも分からないほどにグシャグシャとはね散らしている。
祭壇の前で立ち止まり会釈をする。青年の目線には背もたれの高い椅子に座り、肘に頬を立てかけた老人が居た。何処を見てるかも分からないその瞳には知性を持った邪悪とすら感じされる底知れなく、漠然とした恐怖を感じさせた。
その側には鎧に身を纏い、斧を二つ腰掛けた得体の知れない人物が立っている
青年「英雄アリスの居場所がたった今分かりました。」
その言葉を聞いて『ボス』と思われる老人が死人とも思えるほどの表情に高い口角をもたらした。
ボス「何処にいる?」
掠れた声で一文字ずつ文を読み上げた様に問う。
青年「サンノゼ付近で車を使い移動しています、方向的にサンフランシスコへ向かってるいるのでしょう…」
ボス「麻薬の育成場所にもう気付いたか…」
指でトントン…と肘掛けを鳴らし、何か考えた様な顔で黙り込む。
青年「近くにいた者に既に追跡はさせています。命令を下してくれれば直ぐにでも片付けてくれるでしょう。」
1分程度の静寂を破り青年が口を開く、灯りの一つもない部屋で音すらも無くなっては、空に浮かれた様に不快な気持ちが襲うのだろう。
ボス「追跡してる者と麻薬チームに伝達をしておけ、アリスを殺した奴は幹部にしてやる…とな。」
青年「良いのですか?彼等に私たち幹部と同格になる力など無いと思うのですがーー」
ボス「構わん。」
青年は両手を後ろで組み、こっそり体を伸ばす。
この青年は。ボスの意見に反対する事は出来ないが、それを正しくないと考えられる部下として優秀な男だ、だからこそ今回の意見にはあまり納得が言っていないのだろう…先とは変わって少しの間黙り込む。
青年「ええ、はい。分かりましたよ…では、追跡中のフンゴに、攻撃命令を出してきましょう。」
*******
ブゥーーン……
日付の変わって少したった頃。黒く大きい車が海沿いを急いで走っていた。
暫く走っているうちにアーサーは目を覚まし。サッカーコートの草程度にしか伸びていない髪を右手でワシャワシャ掻きむしり後部座席から食物を漁る。
ーーパン、スナック菓子、缶に入った果物を次々と食べていく。アリスはその間に個包されているクッキーをゆっくり食べていた。ゴミ箱にはすでに二箱も空になっているクッキーのゴミをみるに運転している間、ずっと食べてたんだろう。
早めの朝食を食べ終わり、頭が冴えてきた頃にアリスとの会話が始まる。
アリス「ーー少年はタスクに名前を付けていないのかね?」
アーサー「名前?んなもん要らねえだろ」
アリスはひどくがっかりし、その発言に対し大袈裟な動きをしながら狼狽える演技まで始めた。
アリス「能力に名前をつけるなんて、男の子が大好きそうでカッコいいじゃないか!」
車の外に見えるカモメですら聞こえてそうな程大きい声を出すアリスに拡声器でも持ってんのかとアリスをじっと見つめるが、やはり何も持っていない。
アリス「おや、そんなにじっと見つめられると少し照れてしまうだろ」
頬を赤らめわざとらしく胸を片手で隠すアリスに嫌悪感を感じ、フロントウィンドウを開き顔だけでも外に出して1人の時間を味わう事にする。
アーサー「タスクに名前か…」
口では不必要だと言ったアーサーだが、すでにその思考では何にしよう?で埋め尽くされており、自分の能力についてを思い返してはどれがあっているか照合し続けていく。
ーーーズススススス……
顔を出したその時、地面から黒い点が自分たちを追っかける様に後ろから尾けているのを見る。黒い点の周りには糸がふよふよと囲っており、アーサーがそれを見つけた瞬間に消えてしまった。
子供が噂に伝えられている怪異を見つけた様にアビスに向かいこの事を伝えようとする。
アーサー「おい!アリス、あそこたった今!何かがあったぜ!まるで、オレ達を尾けーーー」
パン!パァン!
子供が噂に言われている怪異をうっかり見つけ、親にその事を伝えて様にアリスへ向かい今の事を伝えようとする……が、銃声が聞こえた。
それと同時に車が円を作る動きをしだし、70キロ出していた車の慣性にアーサーが引っ張られる隣ではアリスが急いでブレーキを踏み、暴れる速度を抑えつけようとする。
アーサー「何が起こった!誰がッ、何をしている!!?」
アリス「攻撃だ…私達はたった今、何者か分からない敵にッ攻撃をされているッ!!」
戦いの火蓋が敵から切られると同時に車から出て2人で背中合わせにくっつき、臨戦体制をとる。
アーサー「地面だ!攻撃をされる前、地面から生えた何かにオレ達は追跡されていた!!」
2人は一応、前方にも注意しながら地面をよく見た
すると、アリスがコンクリートだらけの道に自分たちから10mほど離れたところに一点、黒い点がある事を確認した。
アーサー「あれは…なんだ?」
アリスの囁きを耳にしたアーサーは直ぐに振り返り右手で指している方向をじっと見つめ、警戒する。
昨日だけで2回も負けているのだ、しかも今回は連れがいる…プライドがある分、負ける訳にはいかない
アリス「能力によってできた物だろう…が。その正体が掴めない現状では迂闊に近づけないねーー」
アーサー「だったら…オレが先に行ってやる、オレの『タスク』なら攻撃を受けたって直ぐに治せる。…だろ?」
進もうとするアーサーを引き留めると、アリスは低くしていた視線をあげ右手から3本の指を立てて見せてくる。
アリス「そう言えば、まだ君に言っていないルールがあってね、3つだ!君には私の仲間として戦ってもらう時に3つのルールを守ってもらう!」
アーサーは急に場違いな事を話し出すアリスに少し呆れながらサッサと話をしろと顎を使い促す。
アリス「その1『誰も見捨てない』…だ!仲間だけでなく、民間人や建物まで全て守ってくれ。
その2『誰も殺さない』だよ。例えそれが敵であっても殺すことだけは必ず許さない。
そしてもっとも大事なその3!……それは、
『誰にも負けない』。どれだけ強い相手でも、どれだけ人数不利で最悪な状況でだって負ける事は無い…」
アーサー「分かってんよ、取り敢えず圧勝すれば問題ねぇんだろ?」
アーサーは本当に話を聞いていたかも分からない返事をして黒い点へ向かい歩き出す。
パン!
黒い点に1mまで近付くとその点から銃弾が放たれた。それはアーサーの横腹あたりへと的中する。
アーサーは銃弾が当たると直ぐに横たわり、自身の体に入ってしまった弾を取り出そうと集中した。
その間に再び攻撃される事はなかった。
アーサー「黒い点をから急に銃弾が撃たれやがった…一体、どういう能力なんだ!?」
アーサーが未知の力に対する恐怖を叫びながらアリスのとこへ戻ろうと動き出す。しかし、後ろからぬるぬると何かが這い上がった音をさせているのに気づき、後ろを向くと拳銃が目の前にあるのにやっと気づいたしまった。
アリス「少年!」
アリスが急いでアーサーの腕を引っ張り、放たれた銃弾は肩を軽くするだけで終わった。
謎の男「あれ…今の、避けれんだ…あーもう無理じゃん、こいつらちょっと強いかもしんない……。」
攻撃を仕掛けときながら急に弱気な事を吐き出す敵に対し、アーサーはよく分からない冷や汗をかいた。
男は目が見えないほど伸ばした白髪にヨレヨレのシャツとズボンを履いており、戦えるとは思えない程に急な猫背をしていた。
アリス「良く注意したまえ、口では弱気な事を言っているがわざわざその姿を出してきたんだ、実の所自分の力に対して相当な自身を持っているのだろう。」
フンゴはキノコの様に平く伸びた髪をワシワシと掻きむしりながら、怯えた様に震えた声で答える
フンゴ「イヤ…その。僕が強いってよりも、君たち程度なら僕のタスクだけでも倒せそうだなって…」
アーサーがその強気なのか弱気なのか分からない態度にイラつきながら威嚇する様に吠える
アーサー「舐めんじゃあねぇ!!テメーはここでオレぶっ飛ばされんだよ!」
フンゴ「舐めてるって…こんなに真面目に戦おうとしてるのにそんなこと言われるとか……もう無理じゃん…早く殺そう…うん、そうしよう。」
アーサーとアリスが構える。それと同時にフンゴの周りに繭がバラけた様な形で糸が浮かび上がる。
ーータスク…『ボーン・トゥ・ルーズ』
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