第24話「野心」

第24話野心


エリザベート・ド・セルヴァ。

セルヴァ公爵家の令嬢であり、普通なら王太子妃に一番近い立場だ。

才能にも美貌にも恵まれたエリザベートは、それでも王太子妃という地位にはあまり興味がなかった。


だから、レオン王太子の婚約者にリディアが選ばれた時も素直に祝福の言葉をかけた。

むしろ、政治に興味のないレオンの相手をするのは大変だろう、と少し可哀想にさえ思った。

レオンと結ばれても幸せにはなれない、とエリザベートは思っていた。


その未来の王太子妃を選んだのは、レオン自身ではない。

ガラハルト・エルネスト・ラグリファル。現在のラグリファル王が、王国のことを考えて選んだのだ。


王は、自分の息子であるレオンの出来に関してもきちんと把握していた。

見栄っ張りで中身が薄く、努力も好まない。

あまりの出来の悪さに、側室に産ませた子を後継者にしようかと考えたことさえある。


だが、正当な血統を継ぐ者がいるのに他の者を後継者にしたら王国の火種になりかねない。

兄弟で争うことになったら、隣国が黙っていないだろう。


そこで、聡明で控えめなリディアが選ばれたのだ。

エリザベートも才気煥発ではあるが、少しわがままなところがある。

それに、ガラハルト王はエリザベートの望みも知っていた。

やりたがらない者に押し付けても仕方がない、王はそう思っていたのだ。


リディアは、王の期待によく応えていた。

控えめにレオンを補佐しつつ、国を安定させていった。

レオンからそれとなく言葉を引き出し、レオンの発案であるかのように政策を進めていった。

治安、教育、文化など、リディアの発案は多くの人を感嘆させた。

軍事的なことはあまり得意ではなかったが、そこは王がしっかりと守備を固めた。


そのままの状態が続けば、ラグリファル王国は不可侵の強国になっていただろう。

だが、そうはうまくいかなかった。一番の誤算は、王の健康が長く続かなかったことだ。


病床に臥せっている王は、まだ40を過ぎたばかり。本人はまだまだ自分の力で国を強くし平和を築くつもりでいたのだが、突然の病魔に倒れてしまった。


もちろん、宰相を始めとした家臣も決して無能ではない。そこにリディアも加わって、王がいなくてもラグリファル王国は大丈夫だという姿を見せようと努力した。


王が集め育てた家臣団は、普通であれば十分に国を運営していく能力はあったのだ。

だが、隙を見逃すグラウベルト・フォン・ヴァルハルゼンではなかった。

隣国ヴァルハルゼンの王は、これを好機と捉えた。

さらに、現状に不満を持っている者も把握していた。


ヴァルハルゼンは、ラグリファルと比べると小さな国である。

国境には騎士団を置いて警戒しているが、王都ではあまり話題になることもない。

まして、最近のヴァルハルゼンは非常に友好的な態度を示している。


ラグリファル王国は、平和を楽しんでいた。

ガラハルト王が強くした国は、このまま強いままだと信じていた。

強国に攻めてくるような愚かな者はいるまい、と思っていた。


その状況を、隣国の野心家たるグラウベルト王は狙っていた。

わざと低姿勢な外交を行い、国力も小さく見せた。

北の貧しい国土に苦労してきたグラウベルトは、中央で苦労もせずに豊かさを享受しているラグリファルが憎かった。


「もう少しの辛抱じゃ」


グラウベルトは不敵に笑う。


グラウベルトの陰謀を疑っている者は、ユリウス・グレイ以外にはいなかった。

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