第03-A話 高校デビュー

(遥君。ずっと休みだけど、何かあったのかな…)


平沢知子は告白のことを思い返していた。


『ありがとう』か…。私はフラれたのか、それとも通じなかったのか。


そんな気持ちでいたが、一週間も学校を休んだことに少し責任を感じていた。


小さくて可愛らしい男の子。そして言葉遣いも優しく物静か。


まわりの子供の男どもとは違った。


彼は小さいけれど中身は成熟しているように見えた。


だから、私は惹かれて…。


キンコンカンコーン。

始業のチャイムが鳴ると担任が入ってきた。


「千葉、入りなさい」


遥君!?今日いるの?一週間何があったの?


担任の後ろから、小柄な少女が入ってくる。


(可愛い…)


おそらくクラスの大半がそう感じただろう。


「あー、何だ、言いづらいんだが、ここにいるのが千葉遥君だ」


(え!)


「千葉は家庭の事情で、期間未定で女子の格好をすることになった。異論反論、クレーム、質疑応答には応じない。全員、仲良くするように」


(家庭の事情…)


「千葉、君からも挨拶しなさい」


「はい、先生」


「千葉遥です。このようなお見苦しい姿で申し訳ありません。ですが私は必ず男に戻ります。その日までよろしくお願いいたします」


(いったい何があったの!?)


声変わりしていない遥君の声、少女姿の彼にその声は違和感がない。


「大塚。お前同じ中学だったな、体育は男子グループになる、助けてやってくれ」


「大塚君、よろしくお願いします」


「わかりました、千葉も大変だったな」


(大変だったな?で終わるの?もっとこう何ていうか、突っ込むところあるんじゃ?)


「千葉、席に着きなさい」


「はい」


席に移動する彼が私の隣を通る。


声をかけるなら今!


(あれ…とてもいい香り。シャンプー?いや香水だ!)


この学校で香水つけてる女子なんてめったにいない。


本当に何があったの!?


----


昼休み。


休憩時間に彼に話しかけようとする猛者は現れなかった。


彼は一人昼食の準備をしている。


(どうしよう)


「千葉、隣いいか?一緒に食おうぜ」


「遊馬君、ありがとう」


「それにしても驚いたぜ。すげー可愛いな!(笑)」


「そうかな?変じゃない?」


(今、行くしかない!)


「全然変じゃないよ!」


「平沢さん」


「私も一緒にお昼、いいかな?」


「はい、よろしければ一緒に」


クラスは静まり返り、この状況を見定めようとしている。


(遥君、じゃなくて、もう遥ちゃんじゃん)


(あの可愛さは、反則だわ)


(がんばれ!平沢!)


(え?平沢あれでもありなの?)


様々な憶測が飛び交う中、昼食が始まった。


「でさ千葉、何があったんだ?」


(大塚君いきなり確信を!でも!)


「私も聞きたい!」


遥はどうしようか迷い、少し考えたあと切り出した。


「実は」


「実は、休む前にショッピングモールに行ったら、『女の子らしくしないと本当に女の子になっちゃう呪い』をかけられてしまったんです」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る