第2話

戸枠に掛けた手から鋭く伸びた爪が引っ掛かる…


扉が "ギィ…ギギィィ…" と音を立てて廊下から顔を覗かせたのは、


シャロル様と似たお顔のヤマネコだった。

そのヤマネコこそ、

この店の主、リクシア・リンクス


シャロル様のお父上様に仕事を全て流し、家督の継承を断ったので、城内…爵位を持つ家であれば誰もが知っている。


城内での呼び名は"恐珀(きょうはく)の守護者"

(正直、字面が別の意味で凄くないか?と思った。)


なんでも、

・貿易を円滑に進めて国を栄えさせた。

・ちょっと前に、国が戦争の被弾を被った時も出向いて、終戦させて戻って来たとか…色々。

リンクス家に席を置いていた頃、沢山の功績を上げており重宝されていたというのに…

今ではただの隠居した変人で、平穏な現在を生きる者は皆してその頃を忘れてるんだってさ


「もう、叔父様!そうやって人間を揶揄うのが楽しいんでしょう!」

とシャロル様。


「ふっ…ははは。そうだとも、私の可愛いレディ

最近、私はこれを揶揄うのが楽しくてね…

こんな事も分かるとは…なんて聡明なんだ。」


彼女の前にゆっくりとしゃがみ、手を取り、挨拶をする。


「お父様に家督を譲るからよ!叔父様の仕事姿も、沢山この目に映したかった…」


最後まで言い終わらないうちにシャロル様は声が震えてしまう。


「まぁまぁそう言わないでおくれ。

潤んだ瞳も素敵だが、何も私の可愛いシャロルが悲しむ必要はないんだよ。それに君のお父様の活躍はよく耳にしているよ」


大好きな叔父と同じ琥珀の瞳を滲ませながら、シャロル様は、とても大切で大好きな家族を見つめる。

もう少しで大粒の涙が床にパタパタとこぼれ落ちてしまいそうだ。


涙で滲んだ瞳が…

小さな手も、声も、肩も震えて、

こんなにも叔父である彼の事を思うからこそ溢れてくる涙だった。


それを見て、今や文献でしか残ってないけど、過ぎた歴史に蓋をせず向き合う教育をするリンクス家。

当然、叔父のリクシアが弟に家督を譲った理由についても話してあるのだろう


「―――っ…」


シャロルはついに堪えられなくなった。

不意に彼から向けられた瞳が優しく幸せを抱きしめるような目つきになったのがきっかけだった。


今ある幸せが続いてくれるかは分からないけど、それでもお互いに思いあってるからこそ…

そんな一時を大切にしたい。


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