ヤマネコは少しお茶にうるさい

逢見 イロハ

第1話

星のように散りばめられた斑模様のふわふわな手がティーカップを取り、ゆっくり口元へ運ぶ。


(まずは色と香りを楽しむ。)


手に取ったカップを少し揺らしてみる。


"香りの広がりや色の美しさを一つも逃さまい"


と生き物を閉じ込めたかのような琥珀色の瞳が爛々と光り、吟味する。


その時が恐ろしい。片唾を飲んで見守る

(何としても今日こそは認めてもらいたい…)


そして色や香りを楽しむと今度は、ゆっくりと味わいを楽しむ。


そして、一時の沈黙が流れた後、星のように散りばめられた斑模様のふわふわな手はゆっくりとティーカップをサイドテーブルへ置いて…



「ちょっと!今日のお茶は冷めすぎよ!」





そう叫んだのは

店主の姪っ子のシャロル・リンクス

一爵位を持つ名家のお嬢様


ここへはパーティ用のドレス選びついでに立ち寄ったらしい。

この店は城の下にある街の中心部に位置する為、

何かと買い物や親の仕事が忙しくなるとよく遊びに来るようだ。


忙しくなってしまった理由として、

この店の主が家督を継がなかったせい

おかげで彼女のお父上様に仕事が全て流れてしまう自体。


「ちょっと!そこの…ジェイジェスだっけ?

何か面白い事をしなさいよ!私は退屈なの!」


(また無茶振りが始まった…)

こうなってしまえば、彼女の言う事を聞かない限りはずっと騒がれてしまう…


▶―――――――――――――――――――――


・ジェイジェスとは誰かって?


説明しよう。ジェイジェスとは俺の名前だ。


・何故ジェイジェスに至ったのか…


それは転生して来た時、元世界の名前がこの世界で通じなかったので改名したのだ。


上甲正義。せいぎと書いて、まさよしと読むのだが、この名前のせいで少し苦い思い出がある。


それでも、親から貰った名前を崩したくなくて…

上甲のジョウとせいぎと英語で読ませたジャスティスを少しだけいじらせてもらった


―――――――――――――――――――――◀


「ねぇ、聞いてるの!もう退屈なの!

ジェイジェス、いい加減私に構いなさいよ!」


一応、シャロル様は爵位ある一家の令嬢であり、

護衛なども兼ねた上で、お一人での外出は禁止されているらしい。


(そりゃそうだ。こんな幼い子を一人歩かせてみろ。連れ去られても無理はない)


まだ年端もいかないのに、


「一人で買い物に行きたい」とか

「見た事ないものを全て見て回りたい」とか


(どう考えても、爵位を持つ家の令嬢のする話ではないだろ。もっと自身の身の危険を案じてもらわなければ、こっちの寿命が縮む思いだ。)


そうこうしているうちに、階段から廊下へギシギシと木が軋む音が近づいてきた。



ドアノブが回り、ゆっくりと扉が開く…


扉が開いた隙間から斑模様の手が伸びる…


そして戸枠に掛けられた手から鋭い爪が伸びて…


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