第12話 怒りの王ガン、身を投げ出す
無音の裂け
和光の身体から音が奪われていく。
さらに和光の中で暴れ出した“影の音”。
それは世界を守るためではない。
「存在を守るために世界ごと壊す力」
ゼロに最も近い性質を持つ危険な音だった。
影の音が和光の腕にまとわりつき、
黒い刃のような形を取り始めたその瞬間――
闇の奥から巨大な影が飛び込んできた。
「和光、下がれ!!!」
怒号とともに現れたのは、
濁音の王 ガン だった。
ガンは和光の前に立ちはだかり、
迫りくる無音の波に
自らの身体を投げ出した。
その瞬間――
ガンの巨大な体から、
怒りの濁音が炸裂する。
ガァァァアアアア!!!
怒りの衝撃がゼロ・クラックとぶつかり、
一瞬だけ空間が固定された。
無音の侵食が、
わずかに止まった。
和光は思わず叫ぶ。
「ガン! やめろ!
怒りはゼロに飲まれる!」
しかしガンは振り向かず、
ただ低く唸った。
ガンの怒りの正体
ゼロに身体を削られながら、
ガンは苦しい声で言った。
「怒りは……
弱さから生まれる……」
和光は息を呑む。
ガンは続けた。
「俺の怒りは……
弱い者を守れなかった悔しさだ。
だから……
ゼロには渡せん!!」
その声は、
これまで聞いたどんな濁音よりも温かかった。
和光の胸が震える。
ガンは叫ぶ。
「和光!
影の音を抑えろ!!
お前が飲まれれば……
世界が、終わる……!」
ガン、無音へと踏み込む
ゼロ・クラックは、
怒りも清音も半濁音も、
すべてを消す力。
だがガンは恐れずに、
無音の裂け目へ大きく踏み込んだ。
その理由は――
怒りの王だからではない。
守れなかった者の声が、
いまも胸に残っているからだ。
彼はゼロに向かって吠えた。
「奪わせるものか!!
今度こそ守る!!!」
無音がガンの腕を飲み込む。
肉体の輪郭が少しずつ薄れていく。
それでもガンは後退しない。
和光は膝から崩れそうになりながらも、
胸に光を探した。
影の音に押しつぶされそうな心の奥で――
アンの光が揺らいだ。
インの形が戻りはじめた。
ウンの流れが震えた。
そしてパの鼓動が響いた。
和光、影の音を抑え込む
和光は影の音を見つめた。
その黒い刃は、
確かに破壊の力を宿している。
しかし――
「影も、俺の一部だ。」
和光はそう呟くと、
清音融合とパルス環の“光の輪”を
影の音に重ねた。
影は抵抗し、
和光の腕を切り裂きかけたが――
和光は逃げなかった。
「壊す力も、
守る力に変えられる……
そう教えてくれたのは……
ガン、お前だ!」
影の音が震え、
黒い刃は丸みを帯び、
最後には静かに溶けていった。
和光は影を抑え込み、
完全に飲まれずに済んだ。
ゼロ・クラック、後退
ガンの怒りと和光の清音が合流した瞬間、
ゼロ・クラックは大きくたじろいだ。
無音の裂け目がぐらりと揺れ、
ゆっくりと閉じはじめた。
ガンはその場に崩れ落ちながらも、
和光の方に目だけを向けた。
「……よく……やった……」
その姿は、
もう怒りの王ではなかった。
ただの、
弱さを抱えながらも誰かを守ろうとする者。
和光は震える声で答えた。
「ガン……
君に会えて良かった。」
濁音殿に、
ほんの少しだけ音が戻る。
――ゼロはまだ消えていない。再び現れる
――しかし、和光とガンは確かに前へ進んだ。
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