最後にきみと
雨夜かづき
本編
僕の名前は井上たくみ。僕には高校1年から付き合って1年以上にもなる彼女がいる。名前は桜田みちか。黒髪ロングの女の子で普段は物静かで目が鋭くクールなイメージから初対面の子には怖がられがちだが、根はとても優しい子でそんなギャップに僕は惚れてしまった。
努力の末、告白も無事成功して夏休み明けから付き合うことになった。
そして高校2年生の冬。付き合ってから2人仲良く今まで過ごしてきた。
今日は高校の終業式で、いつも通り学校から一緒に帰っていて信号を待っている時のことだった。
その日はいつもよりも人が多く、僕たちは手を繋いで待っていたが、人混みの中を慌てて歩いていた人とみちかがぶつかってしまい、そのまま道路に飛び出してしまった。
みちかが車に轢かれる…。
そう思って咄嗟にみちかの腕を掴んで歩道の方に引っ張り、なんとか助けることができた。
しかし、僕は急いでみちかを助けるために体重を道路の方にかけていたので、今度は僕が道路に飛び出してしまった。
そしてそのまま車に轢かれてしまった。
あぁ、これは絶対に死ぬやつだ。
これで僕の人生も終わりなのか…。
たくさんの悲鳴が聞こえる。
だんだんと視界がぼんやりしていく中、みちかの泣き叫ぶ声が聞こえる気がした。
———————————————
「あれ、生きてる…。」
目が覚めると何もない真っ白な空間にいた。
そこは静寂に包まれ時間の流れなんかも何もわからない。
もしかしてここが死後の世界なのかと思っていると、黒スーツで黒帽子の謎の男が現れた。
「いやぁ〜。彼女の代わりに車に轢かれて死ぬなんてなんともロマンチックな話ですねぇ〜。おっと、わたくしはこの世界で死を司っている神様です。面白い死の予感がして見てみたらそれはもう素晴らしい死に方でございました!」
死を司る神様?いつもの僕なら信じないが、車に轢かれて死ぬはずの僕がここにいることで説得力を増していた。
「あの…。僕はこれからどうなるのでしょうか。」
僕がそう尋ねると神様は大きな笑みを浮かべた。
「そのことを伝えにきたのです!本来ならば死んだ魂は輪廻の輪に入れて再び違う魂として蘇らせるのですが、わたくしは今回!あなたの死に深く感動し、せっかくですので機会を与えようと思ったのです!」
「機会…?」
「はい!あなたには生き返るか生まれ変わるかを選んでもらいましょう!」
「生き返ることができるのですか!それならばすぐにお願いします!」
「少し落ち着いてください。生き返りといっても条件はあります。まずひとつ目は生き返りには期限があるということ。期限は目が覚めてから24時間。時間が経てばあなたは消滅してしまいます。そしてふたつ目の条件が24時間経つとあなたがこの世界にいた痕跡が記憶を含めて全て消滅するということです。これはまぁ生き返らせることによって生じる世界のバグを消すために最初からあなたがいなかったことにするということです。」
記憶が消える…?
そうなったら僕とみちかのあの日々は無かったことになるのか?
そんなのは嫌だ!
だけどせっかくみちかともう一度会うことができるのに…。
「まぁそう深く考えずに。もし痕跡が消えたら彼女さんやご家族の方が悲しむことはないと思いますよ?そしてあなたは満足して生まれ変わることができる。両方に利益がありますよ?」
たしかに…。
記憶が消えればみちかたちが悲しむことはないのか…。
「わかりました。条件を受け入れて生き返ります。」
「かしこまりました!それでは24時間楽しんでくださいねぇ〜。」
———————————————
「ん…。」
気がつくと病室のベッドで横になっていた。
「たくみ!気がついたの!」
「あ…。」
声の方を見るとみちかがベッドの横の椅子に座っていた。
本当に良かった。
みちかが無事で…。
「もう!なにしてるのよ!たくみったら私を助けるために車に轢かれて…。本当に死んじゃったと思ったんだからね…。」
「ごめん…。でもみちかが無事で良かったよ。」
「次から絶対にあんな無茶はしないこと!わかった?」
「うん、わかったよ。」
「でも助けてくれてありがとう。あのまま死んでたくみともう会えないと思うと…。」
みちかはそう言って泣いてしまった。
僕はもう会えないと思っていたみちかとまた会うことができた嬉しさで涙を流す。
2人が落ち着いた後、僕はあの事故の後のことを聞いた。
あの事故の後、僕は救急車に運ばれた。
ただ車に轢かれたにも関わらず、外傷もなく
呼吸も安定していてお医者さんも困惑していたらしい。
検査をしてもおかしな部分はなかったので、とりあえず意識が戻ってから様子を確認しようということで入院することになった。
今は事故からまだあまり経っていないらしく、12月22日の20時になったばかりだった。
12月23日の20時に僕はこの世界から消えてしまう。
このことをみちかに伝えないと…。
「みちか、聞いてほしいことがあるんだけど…。」
「どうしたのたくみ?」
「僕本当はね、あの事故の時に死んだんだ。」
「何言ってるのよ、事故から助かったのにそんなこと言わないで!」
「いや、本当なんだ…。」
僕は神様と会って生き返らせてもらったことや条件のことなど全て話した。
「うそ…。じゃあたくみは私のせいで…。」
「みちかのせいではないよ!助けたのも僕の意思だし後悔なんてしてないよ!それに1日経てば記憶は無くなるから…。」
「そんなの嫌だよ!なんでたくみとの大切な日々を忘れないといけないのよ!ずっと一緒にいれると思っていたのに…。私のせいで…。」
「ごめんね、でもどうしても最後にみちかに会いたかったんだ。」
「たくみのせいじないよ…。ごめんなさい、本当に。」
しばらく重たい空気が流れる。
こうなることはわかっていたけど、やっぱりみちかが悲しんでいるのを見ると僕も悲しくなる。
この重たい空気のなかはじめに声をかけたのはみちかのほうだった。
「取り乱してごめんね…。せっかくたくみが生きてるんだから最後の1日思いっきり楽しもう。それに、もしかしたら1日経っても生きてるかもしれないし…。」
「みちか…。ありがとう。」
だが、時間はもう21時。今から朝まで出かけるのを待っていたら過ごせる時間が短くなってしまう。
そんなことを考えていたらみちかが口を開いた。
「たくみ。今から逃げ出さない?後1日しかないのだったら時間は少ないし…。それに今日私の家誰もいないんだ。今日は私の家でお泊まりして明日朝早くから出かけない?」
「でも家にいても大丈夫なの?」
「最後の1日くらい好きに生きましょう。本当はいつかお泊まりもしてみたいって思ってたし…。」
みちかは少し恥ずかしそうに言う。
顔を赤くしたみちかがじっと見つめてきて、なんだか僕まで恥ずかしくなってくる。
「そっか、じゃあいまからにげよっか。」
僕は『出かけます。』と書いた紙をテーブルに置き、みちかと病院を出た。
幸い、地元のそこまで大きくはない病院だったので簡単に抜け出すことができた。
少し走った後、僕とみちかは人目の少ない道を歩いた。
「病院を抜け出すなんて私たち不良みたいだね。」
「たしかに、普段の僕たちならこんなことはしないもんね。」
自然と笑みが溢れた。
みちかも同じように笑っていた。
こんな時間がずっと続けばいいのに。
———————————————
10分ほど歩くとみちかの家に着いた。
「お邪魔します。」
「たくみ緊張してる?」
「こんな夜遅くにみちかの家に来ることなんてなかったからね。」
「それもそうね。とりあえず私は夜ご飯を作るからたくみはお風呂にでも入っていて。」
「ありがとう。みちかの料理楽しみにしてるね。」
「待ってて。とびきりの料理を作るから。」
僕はお風呂で1人きりになると改めてみちかとの時間がこれで最後だと言うことを実感する。
明日にちゃんとお別れできるかな。
やっぱり離れたくないな…。
本当はもっと2人で行きたい場所もあったし、したいことだってあったけどそれも叶わないよね…。
視界が霞む。
気づけば涙が溢れていた。
だめだ…。
僕が泣いていたらみちかも悲しんでしまう。
お風呂に出る頃には泣き止まないと。
お風呂から出るとみちかがエプロン姿で料理をしていた。
「もうすぐできるからね。もう少しだけ待ってて。」
僕はソファに座り、みちかが料理をしている姿を見ていた。
エプロンよく似合っているなぁ。
料理の手際も良いし、将来いい奥さんになるんだろうなと思う。
みちかを誇らしか思うと同時に、将来共にいれないことが悔しくもある。
そんなことを考えていると、みちかが机に料理を並べ始めた。
僕もお皿やお箸を並べたりするのを手伝い、準備が終わり2人で席についた。
机には白ごはんに味噌汁、そして野菜炒めに卵焼きが並んでいた。
「ごめんね、材料があまりなくて結局簡単な料理になっちゃった。」
「どれも美味しそうだね。みちかの料理を食べれるなんて幸せだなぁ。」
「味には自信があるからいっぱい食べてね。」
「ありがとう。」
まずは野菜炒めから口に入れてみる。
「おいしい!すごいねみちか!」
「よかった。喜んでもらえて。」
本当に美味しい。
野菜とお肉、そして調味料での味付けも絶妙でいくらでも食べれそうな感じだ。
「本当に美味しそうに食べてるね。見てるだけで嬉しくなっちゃう。」
「本当に美味しいんだって!みちかはすごいね。」
「そんなに褒められると恥ずかしいよ。」
可愛い。
もっと褒めてからかいたくなる。
食事を終えるとみちかは
「のぞくのはだめだからね。」と言い残してお風呂に行った。
どうせ最後だし見てもいいんじゃないかと言う欲望と戦っていたが、最後だからこそいつも通り大切にしようと言うことできちんと言われた通りに待っていた。
お風呂から上がると、みちかは少し不満そうな顔をしていた。
「のぞいたらダメとは言ったけど本当に来ないなんて。たくみになら見せてもよかったのに。」
せっかく言われた通りにしたのに。
「ちゃんとみちかに言われた通りにしただけだよ。僕だって我慢してるんだよ。」
「そっかそっか、まぁそう言うところも好きなんだけどね。」
みちかはにやけながらそう言う。
「そうだ。お願いがあるんだけど、私の髪乾かしてもらってもいい?」
僕は慣れない手つきでみちかの髪を乾かし始めた。
初めてのことで少し緊張もしている。
「たくみに髪を乾かしてもらうのも憧れだったんだー。」
「そうなの?」
「うん、他にももっとしてほしいことはあるんだよ?」
「そっか…。してほしいことは遠慮せずに言ってね!」
「うん…。」
髪を乾かし終えると僕たちは布団に入った。
「なんだか緊張するね。」
たしかに思っていたより距離が近くて緊張する。
この調子で寝れるのかな。
「ねぇたくみ…。」
「ん?どうしたの?」
「本当にいなくなっちゃうの…?」
みちかが不安そうな顔で聞いてくる。
やっぱりまだ受け入れられないのかな…。
僕だって正直認めたくない。
でも今会えていること自体が奇跡なんだ。
これ以上望んではいけない。
「うん。」
「やっぱり嫌だよ。私たくみと過ごした日々を忘れたくないしずっとそばにいたい。」
「僕だってずっと一緒にいたいよ。でも無理なんだ…。本来僕はもうすでに死んでいてみちかとこの時間を過ごすこともなかった。本当に僕にはどうすることもできないんだ。」
「じゃあ私も一緒に連れていってよ!置いていかないで…。」
みちかは涙を流す。
きっとこの話を聞かされてからずっと泣くのを我慢していたのだろう。
僕はただみちかを抱きしめることしかできなかった。
みちかは少し落ち着いた後そのまま眠りについた。
何もできなくて本当にごめん…。
———————————————
朝になった。
目が覚めると横でみちかが寝ていた。
もう朝か…。
時計を見ると6時28分だった。
残り13時間くらいか…。
「んーっ…。」
みちかが目を覚ました。
起きるとすぐにみちかは時計の方を見る。
きっと僕と同じように残り時間を確認したのだろう。
みちかは僕を強く抱きしめた。
「おはようみちか。」
「おはようたくみ。」
僕たちは挨拶を交わした後、互いに身支度を整えてみちかの提案で散歩に行くことにした。
「たくみ。この後のことなんだけど、何かしたいとはある?」
「んー。ぼくはみちかがしたいことを一緒にしたいかな。」
「じゃあ思い出でもしない?」
「いいね。最後にいろんなところ見て回ろっか。」
「うん…。」
僕たちはそこからいろんなところを歩いた。公園や学校の周りを歩いたり、初めてのデートで行ったカフェでご飯を食べたり、ショッピングモールを見て回ったりもした。
「疲れたね。久しぶりにこんなに歩いたかも。」
「そうだね。でも結構懐かしいところもあって歩いて楽しかったよ。提案してくれてありがとうねみちか。」
「こちらこそありがとう…。」
時間も気づけば17時になっていた。
本当にあともう少しで…。
僕が考え事をしていると、みちかが少し遠慮がちに口を開いた。
「あのさ、やっぱり最後にたくみのお母さんに挨拶に行ってみたら?」
「どうしたの急に?」
「だってたくみって母子家庭でお母さんとずっと2人で暮らしてきたでしょ?やっぱり何も言わずにお別れなんてお互いにとって辛いと思って…。」
「でもこのまま会っても会わなくても忘れられるわけだし…。
「本当に後悔しない?」
「後悔は、すると思う…。」
「それなら会いに行こうよ。」
「わかった…。心配してくれてありがとうね。」
僕は昨日から電源を切っていたスマホを開いた。
たくさんの通知が来ていてもう少し説明するべきだったと後悔した。
そしてお母さんに電話をかけた。
すぐに電話はつながった。
『ちょっと!なにしてたのよ!事故に遭ったってのにも驚いたのに病院を抜け出すなんて!今すぐ戻ってきなさい!」
「お母さん、今から会わない?伝えたいことがあるんだ…。家で待ってて。」
———————————————
「ずっとなにしてたのよ!」
「ごめんお母さん。」
「突然事故に遭って目が覚めたら病院から抜け出すバカがどこにいるのよ!」
「うん…。ごめん…。」
「何があったの?今までこんなことなんてなかったじゃない。」
「実は…。」
そして僕はみちかに説明したように、神様に会ったことや、もうすぐいなくなることを伝えた。
「何言ってるのよ、そんなことあるわけないじゃない…。」
「本当なんだ…。最後にお礼だけ伝えておこうと思って…。」
「たくみ…。」
「お母さん、今までありがとう。小さい頃にお父さんが亡くなってからずっと1人で僕を育ててくれて。お母さんの料理はいつも美味しかったし、落ち込んでいる時に励ましてくれた時なんかはいつも救われていたんだ。いつか恩返しをしようと思っていたんだけどな…。本当にごめん…。どうか僕がいなくなっても元気に過ごしてね…。」
「やめてよ、最後だなんて…。」
「お母さん、本当にありがとう。」
お母さん…。
あぁ…。
やっぱり辛いよ…。
僕がいなくなったらお母さんやみちかも僕のことを忘れてしまう。
悲しむことがないから大丈夫と思っていたけど、戻ってきたことが本当に正しかったのかもよくわからなくなってきた…。
とうとう涙が溢れてしまった。
お母さんは僕を抱きしめた。
身体は暖かくなる一方で、もうすぐ1人になるということをより感じさせる。
「ごめんね、本当にごめん…。お母さん、今までありがとう…。」
「たくみ…。嘘だと言ってよ…。お母さんそんなこと信じたくないよ…。」
「お母さん…。」
しばらくの間沈黙が続く。
時間は18時40分。
お母さんとの別れも惜しいが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
「お母さん、本当にごめん。もうすぐ時間なんだ…。最後にみちかと過ごしてきてもいいかな?」
「そうだね…。もし本当ならもうすぐ時間だもんね。行ってらっしゃいたくみ…。」
「ありがとう、お母さん…。」
「たくみ…。あなたは立派に育ってくれたわ。恩返しなんて考えてくれていたかもしれないけど、私からしたら十分幸せにしてもらったよ。
お父さんがいなくなってからずっと、あなたがいるから今まで頑張れてこれたの…。だからどうか、自分のしたことに後悔はしないようにしてね。」
「うん、本当にありがとう…」
「大好きよ、たくみ…。いつでも戻ってきていいからね。」
「またね。お母さん。」
「行ってらっしゃい…。」
僕は家のドアを開ける。
ドアを開ける手がいつもよりも重たく感じた。
お母さんは僕の姿が見えなくなるまで静かに見守っていた。
気づけば雪が降っていた。
この雪と一緒にそのまま消えてしまいそうな感覚になってしまう。
もうすぐだな…。
みちかは僕とお母さんを2人にするためにずっと外で待っていてくれた。
「みちか、ありがとう。おかげできちんと別れを告げることができたよ。」
「よかった…。最後に海にでもいかない?」
「海?いいよ?」
———————————————
海に着いた。
冬の海はとても寒く僕たちは少し体を震えさせながらも近くのベンチに座り体を寄せ合っていた。
20時までもう1時間もない。
僕たちはしばらく何も言わずただ座っていた。
「たくみ。」
「ん?どうしたの?」
「もうすぐお別れだね…。」
「うん…。」
「やっぱりまだ信じたくないな…。」
「僕も…。」
「私、これからどうしたらいいと思う?」
「みちかにはこれからも元気に過ごしてほしい。部活や勉強も頑張って好きなことをして…。幸せでいてほしい。」
「そんなの無理だよ…。たくみがいないのにどうやって幸せになればいいの。そもそも私のせいでこうなったんだよ?たくみはなんとも思わないの?」
「僕は絶対にみちかを助けたことは後悔しないよ。ただそのせいでみちかが苦しんでいるのを見ると辛くなる。悲しむなとは言わないよ。でも、自分を責めないでほしいんだ…。あの日起きたことは決してみちかのせいじゃない。だからどうか…。これからの人生も諦めないで。きっとみちかにはいいことがたくさんあるよ。」
「…。ありがとうたくみ。」
もうすぐ時間だ…。
これでもう2度と会えなくなる。
みんな僕との時間を忘れていくんだ。
でもきっとこれでよかったんだ。
これからの人生でこのことを抱え込むのはきっと苦しいだろうから…。
「たくみ!」
元気な声で呼ばれた。
いや、無理に元気に見せているように見える。
「最後に私に会いにきてくれてありがとうね。きっとあのままじゃお別れなんてできなかったはずだから。私はもう大丈夫…。たくみがいなくなってからも夢を見つけて頑張るよ。だからたくみも元気に過ごしてね。大好きだよ…。
この世界の何よりも。」
また泣いてしまった。
きっともうみちかはこれからも元気に生きていける。
これでもう大丈夫だ…。
「僕の方こそありがとうね。最後にみちかとこうやって過ごすことができてよかった。あの日できなかったお別れをちゃんとできてよかった。大好きだよみちか。愛してる。」
僕たちは唇を重ねる。
どれくらい時間が経ったのかはわからない。
けれどもうすぐ消えると言うことが直感で分かった。
僕の身体は次第に薄くなり消えていく。
これが最後だ…。
「みちか…。今までありがとう。いつまでも忘れないよ。」
「私も絶対に忘れない…。またいつか会おうね…。」
「うん…。」
最後にみちかの声が聞こえた気がした。
事故の時とは違う、悲しみもありつつも、穏やかな声だった。
———————————————
「お帰りなさいませ、1日楽しめたでしょうか?」
気がつくと、あの時の白い空間にいた。
そこには神様もいた。
「うん、楽しかったよ。最後に伝えたいことも伝えた…。神様、本当にありがとうございました。」
「それにしても最後まで美しい死でありましたねぇ〜。これにて、あなたは世界から存在自体がなかったことになりました。」
そっか…。
これでもう終わりか。
でも本当に楽しかった。
もう悔いはない…。
「それでは生き返りが終わったことですし、あなたを再び輪廻の輪に入れたいと思います!よろしいですか?」
「はい…。お願いします。」
「ではまた新たな人生をお楽しみください!」
———————————————
何もない静寂に包まれた白い空間。
神秘的だと思わせる一方で不気味さも感じさせる。
その中には神様がある青年を見送ったあと1人で下界の様子を見ていた。
「はぁ〜。これはしばらく後処理が終わらなさそうですねぇ〜。」
最後にきみと 雨夜かづき @amayakazuki
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