第1話「休み時間の話」【裏】
窓際の席で悪役令嬢もののラノベを読みながら、時々窓の外に目を向けて「ふん」と小さく呟く。うん、我ながら達観系女子を振舞えていると思う。
小学校、中学校として友達という友達はいなくて、唯一の友達といえばアニメやラノベというコンテンツだけだった。私はこれまでの人生で人を寄せ付けない素質が自分に備わっていると思っていたし、サブカル系の作品に触れすぎて、正直なところ拗らせていた。
だからその経験を逆手にとって、高校生活では「人生三周目ぐらいに達観していて寡黙で知的な女性」というキャラ設定でやっていこうと決心していた。だって、かっこいいし。
いつものようにブックカバーを被せたラノベを読んで、つまらなさそうに(悦に浸っている)、誰に見られているわけでもないのに、窓を眺めてかっこつける。
「何読んでるの?」
浸っている私に同じクラスの沼津くんが声をかけてきた。
きゃああああああああ男子に話しかけられたああああ!
心の中で大きく叫ぶが、ここは澄ました顔で装わなければいけない。
それに「何読んでるの?」の問いに対して、今読んでいる内容を話すわけにはいかない。逆ハーレムものを読んでいることは秘密にすべき内容なのだ。
「なんだっていいじゃない」
素っ気ない態度。うん、悪くない振る舞いだ。
でも、ちょっと素っ気なさすぎたかもしれない。本当は少しばかり友達が欲しい。こういうことをするから誰も寄ってこないのかもしれない。
私が脳内反省会を開いていると、沼津くんは身を乗り出して私が読んでいるページを覗き込んだ。
あああああああああ!やばいやばい!今読んでいるところはとってもホットでキュンキュンシーンなわけで、何よりハドルフとリックとルファイに求婚を迫られている絵が描かれている。
「へえ、塩波さんはそういうの好きなんだ」
興味深そうな目で私を見つめてくる。わわわ、これは弁解しなくては…!
「…別に」
やっとの思いで言い放った言葉がその三文字。何の弁解にもなってない。
「別にって、じゃあ何で読んでるの」
沼津くんはさらにつっこんでくる。やめて!これ以上私をいたぶるのは。私のライフはもうゼロなのよ!
どう切り抜ければいいのだろう。動揺を表情に出さないようにしながら脳をフル回転させた。
「これは…そう、市場調査よ。昨今のライトノベル小説のトレンドをおさえるために仕方なく読んでるの」
苦し紛れの言い訳だった。本当は全くそういう意図はない。
「へえ、将来ラノベ作家志望だったり?」
沼津くんは納得してくれたみたい。ラノベ作家…それもありだなぁ。執筆するなら…「異世界転生者を送り出す女神が俺Tueeeの主人公たちに求婚される」といったところかな。
「…まあそんなところかしら」
そう妄想を膨らませながらケロッとした顔で言う。
話はそれで終わるかと思ったけれど、沼津くんは私のもとから離れない。
こう、男子にジロジロと見られちゃ、逆ハーレムものの世界観に入り込めないじゃない…。
「…ジロジロ見られてたら本に集中できないのだけど? どこかいってくれる?」
私は突き放すように言ってみせた。沼津くんは「ああ、ごめん」と言って自席に戻る。
しかしどうして沼津くんは私になんて話しかけてきたのかな。もしかして、もしかすると、私に好意があったり!?
いやいや確かに私のキャラ設定は「人生三周目ぐらいに達観していて寡黙で知的な女性」だけど、それは自分の世界だけの話であって、誰かにそう思われているとは思えない。
考えすぎかな。でも沼津くんは積極的だし、ちょっぴりかっこいいなとも思ったり…。
いかんいかん、私なんぞに好意を寄せる男子なんていないのだ。妙な期待をして違っていたら痛い女子じゃないか。
そうあらぬ期待に悶々としながら再びラノベに目を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます