隣の席の地味な女子が、俺の配信の熱狂的アンチ（投げ銭ランキング1位）だったのだが、特定して問い詰めたら求婚された

第24話：暴走する模擬挙式と、３分間の誓いのキス

「新郎新婦、入場です！」

放送委員のアナウンスと共に、教室のドアが開かれた。

そこには、もはや高校の文化祭のレベルを超越した光景が広がっていた。

深紅のバージンロード。

窓を埋め尽くすステンドグラス（自作）。

そして、パイプオルガンの生演奏（プロを雇ったらしい）。

参列席には、買収された生徒たちがGODIVAのチョコを片手に満面の笑みで拍手を送っている。

「……やりすぎだろ、マジで。」

俺、佐藤カイトはタキシードの襟を直し、隣に立つ花嫁を見た。

綾小路シズク。

純白のヴェール越しに見える彼女の横顔は、緊張で強張っていた。

さっきまでの「殺意の波動」はどこへやら。

いざ本番となると、彼女の手は小刻みに震えている。

「カ、カイト君……。

足並み、揃えてくださいね……。転んだら末代までの恥です……。」

声も上ずっている。

「模擬」とはいえ、彼女にとっては本気（ガチ）の儀式なのだ。

その震える指先を見て、俺の中のスイッチが入った。

「大丈夫だ、シズク。」

俺は彼女の手を、力強く握り直した。

「えっ……？」

「俺がリードするから。お前はただ、笑ってればいい。」

無自覚な言葉だった。

でも、彼女を不安にさせたくない一心だった。

俺の言葉に、シズクはハッと息を呑み、そしてヴェールの下で、花が咲くように微笑んだ。

「……はい、旦那様。」

二人はゆっくりと歩き出す。

一歩進むごとに、割れんばかりの拍手と冷やかしが降り注ぐ。

ヒューヒュー！　お似合いだぞー！

もう籍入れちゃえよ！

末長く爆発しろー！

祭壇の前。

神父役のクラスメイト（日給３万円）が、厳かな顔で聖書を開く。

「新郎、佐藤カイト。

汝は、病める時も、健やかなる時も、資産が暴落した時も、炎上した時も、彼女を愛し、彼女のアンチコメントを受け入れ、一生尻に敷かれることを誓いますか？」

誓いの文言がおかしい！

だが、ここでツッコむのは野暮だ。

俺は隣のシズクを真っ直ぐに見つめた。

「……誓います。」

俺の声は、自分でも驚くほどはっきりしていた。

会場がどよめく。

「では新婦、綾小路シズク。

汝は、彼を愛し、彼を監禁し、彼に無限のスパチャを投げ続け、死が二人を分かつまで……いや、死んでも彼を束縛し続けることを誓いますか？」

シズクは一瞬、言葉を詰まらせた。

そして、潤んだ瞳で俺を見上げ、震える声で答えた。

「……誓います。

私の全てを賭けて、貴方を幸せにします。」

「うおおおおお！！」

神父が叫ぶより先に、参列者たちが号泣しながらスタンディングオベーションをした。

なんだこの空間。宗教か？　いや、愛だ。

「それでは、誓いのキスを。」

ついにその時が来た。

シズクが以前宣言した「窒息するまでの３分間のキス」。

彼女はゆっくりとヴェールを上げ、目を閉じて待っている。

その唇はプルプルと震えていて、頬は林檎のように赤い。

（３分もしたら、シズクが気絶しちゃうだろ……）

俺は彼女の腰に手を回し、そっと引き寄せた。

そして、彼女の耳元で囁いた。

「……短くするけど、許してな。」

「えっ――んっ！」

俺は彼女の唇に、優しく、でも確かに自分の唇を重ねた。

３分なんて長くない。

ほんの一瞬、触れるだけのキス。

でもそれは、どんな言葉よりも熱く、俺たちの体温を伝えた。

一瞬の静寂の後、教室が揺れるほどの歓声が爆発した。

「キャーーーー！！」

「ガチだ！　ガチでキスしたぞ！！」

「写真撮れ！　歴史的瞬間だ！！」

俺が唇を離すと、シズクは腰が抜けたように俺の胸に倒れ込んだ。

顔は真っ赤で、目はトロンとしている。

「……カイト君の、嘘つき。

３分って言ったのに……こんな……一瞬で溶かされるなんて……。」

「嫌だった？」

「……最高、でした。」

彼女は幸せそうに埋もれ、俺のタキシードをぎゅっと掴んだ。

その姿は、最強のアンチでも、冷徹なプロデューサーでもない。

ただの、恋する女の子だった。

俺たちが愛の余韻に浸っていると、俺のポケットで、空気を読まない震動が走った。

【 ￥50,000 】

死ね死ね団：

……合格。

でも、みんなの前で見せつけるなんて露出狂か？　変態か？

……あとで楽屋裏に来い。３分の続きをする。拒否権はない。

スマホの画面を見せると、シズクは「ふふっ」と悪戯っぽく笑った。

「さあ、退場しましょう。

……私の、本当の旦那様。」

こうして、俺たちの文化祭は伝説となり、俺の「既婚者疑惑」は確定事項として全校生徒に刻み込まれたのだった。