第20話:文化祭の出し物と、強行採決(買収)された模擬結婚式
「えー、それでは文化祭のクラス出し物を決めるぞ」
体育祭の興奮も冷めやらぬ10月。
2年B組のホームルームは、再び熱気に包まれていた。
文化祭。それは高校生活における最大のイベントであり、カップル成立率が急上昇すると言われる魔の祭典だ。
「やっぱ『メイド喫茶』だろ!」男子Aが叫ぶ。
「えー、男子も女装するならいいけどぉ。あたしは『お化け屋敷』がいい!」女子Bが反論する。
「『タピオカ屋』で稼ごうぜ!」
意見は割れに割れ、収集がつかない状態になっていた。
黒板には雑多な案が並び、学級委員長が頭を抱えている。
その時だった。
教室の後ろから、あの「鶴の一声」が響いたのは。
「……非効率ですね」
綾小路シズクだ。
彼女は静かに席を立つと、教卓まで歩み寄り、チョークを手に取った。
そして、黒板に書かれた『メイド喫茶』『お化け屋敷』などの文字の上に、大きく×印をつける。
「あ、綾小路さん!? 何すんの!?」
「こんな有象無象の企画、やるだけ時間の無駄です。我がクラスが目指すべきは、エンターテインメントの頂点……すなわち」
彼女は新しいチョークをへし折る勢いで、黒板の中央にデカデカと文字を書いた。
『 模 擬 結 婚 式 』
教室が静まり返る。
「……は?」誰かが呟いた。
「模擬結婚式です。チャペルを建設し、神父を招き、厳かに愛を誓う。これ以上の感動(エンタメ)がありますか?」
「いやいや! それ出し物じゃないし! 誰と誰が結婚すんのさ!」
男子生徒のツッコミに、綾小路さんは「愚問ですね」と言わんばかりに俺を指差した。
「新郎は佐藤カイト。新婦は私、綾小路シズクです」
「私物化がひどい!!」
俺は机から立ち上がって叫んだ。
クラスの出し物を使って、自分の結婚願望を満たそうとするな!
「ま、待てよ綾小路! そんなの客が来るわけないだろ! ただの公開挙式じゃねーか!」
「集客なら問題ありません。参列者(客)には、引き出物として『GODIVAのチョコ』と『アマゾンギフト券1000円分』を配布します」
「客を買収する気か!!」
「さらに、クラスの皆さんにも協力報酬(給料)を支払います。……一人あたり日給3万円でどうですか?」
ざわ……ざわ……。
クラスメイトたちの目の色が変わった。
高校生にとっての日給3万円。それは魂を売るに十分な金額だ。
「異議なし!」「模擬結婚式、最高!」「俺、神父やるわ!」「私、フラワーシャワー係やる!」
「ちょ、みんな!? プライドないの!?」
俺の悲痛な叫びは、歓喜の渦にかき消された。
綾小路さんは満足げに頷き、俺の方を見てニヤリと笑う。
「決まりですね、カイト君。衣装合わせのために、今週末はパリへ飛びますよ?」
「規模がおかしいって! レンタルでいいだろ!」
「一生に一度(のリハーサル)ですよ? ヴェラ・ウォンのドレスと、タキシードをオーダーメイドします」
彼女は教壇を降りると、俺の席までやってきて、耳元で囁いた。
「……誓いのキス、練習しておいてくださいね?」
「えっ」
「本番で失敗したら、やり直し(リテイク)させますから。100回でも」
顔を真っ赤にして俯く俺のポケットで、スマホが震えた。
【 ¥50,000 】
死ね死ね団:
おい新郎。ニヤけてんな。でもタキシード姿はちょっと見たい。……もし式の最中に逃げたら、違約金30億円請求するから覚悟しとけ。愛してる。
「脅迫とプロポーズを同時にするな!!」
こうして、2年B組の出し物は「綾小路シズクと佐藤カイトのガチすぎる結婚式」に決定した。
俺の高校生活は、もはや「学生」ではなく「綾小路財閥の婿養子候補」としての既成事実作りへとシフトしていた。
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