第21話 エピローグ

王宮の会議室。

今日は、5人の公爵とその息子達が集まって、定例会議が開かれる予定だ。

集まった大貴族達は、久々の再会に、まずはお互いの近況報告から始める事となった。


「ブラックウィンド侯爵、婚約おめでとう」

「ありがとうございます」

「あの小さかったレイ坊が、こんなに大きくなって…おじさん、感無量だよ」

昔は美貌で鳴らしたキングスリー公爵が、涙を拭うふりをした。


「大げさだな。キングスリーは」

リヴァーデイル公爵が、苦笑いを浮かべた。

彼は、銀灰色の髪を持つ、壮年の偉丈夫である。

何か悩み事があるのか、その顔色は冴えなかった。


「レイに先を越されるとはな。…俺の方が年上なんだぞ」

ストーンヘイヴン公爵が、不満気な声を漏らした。

彼は最近、公爵の地位を継いだばかりである。


「エドワードは、ちゃんと領主の仕事をやっているかね?最近忙しいと言って、全然家に帰ってこんのだよ」

マーベリントン公爵が、レイに向かってぼやいた。

まさか、シェルバーン伯爵令嬢と遊び回っています、とは言えないので、レイは当り障りのない返事を返しておいた。


「さあさあ、世間話はそれくらいにして、会議を始めよう」

レイヴンクロフト公爵の一声で、会議室に緊張感が漂った。


会議が終わった後、レイはリヴァーデイル公爵に話しかけた。

「…公爵、どこか体の具合でも悪いのですか?」

公爵は、やつれた顔をして、顔色も悪かった。

「…体はどこも悪くない。これは精神的なものが大きくてな…」


リヴァーデイル公爵は、幼い頃に行方不明になった息子を、いまだに探し続けているのだ。

「妻には、もういい加減に諦めて、跡継ぎを決めて下さい、と催促されているのだがね…」

公爵は、前の妻を病気で亡くした後、再婚したと聞いている。


「息子さん、見つかるといいですね」

こんな言い方で、慰めになるとは思えなかったが、公爵は嬉しそうな顔をした。

「…ありがとう。本当は、もう半ば諦めているんだよ…こんなに手を尽くしても、見つからないという事は、あの子はもう…」

リヴァーデイル公爵は、そう言って、がっくりと肩を落とした。


退室していく公爵を、アーサーが、同情した顔で見つめていた。

「…気の毒に。子供を失うなんて、親には何よりも辛い事だろうに」

「リヴァーデイル公爵の息子は、何で行方不明になったんだ?」

「…実は、誘拐されたんだよ。まだ生まれて数か月しか経っていなかったのにね」


アーサーが、会議室を見回した。

「…公爵家も寂しくなったな…」

王国に5人しかいない公爵家の跡継ぎは、成人する際に、侯爵になる為の継承の儀式を受ける。

各々の家の事情により、現在、侯爵は2人しかいなかった。


どの家も、それぞれの事情を抱えている。

レイヴンクロフト家も、跡継ぎがレイ一人しかいない、という問題があった。

だから、一刻も早く結婚相手を見つける必要があったのだ。

「でも、いい娘が見つかって、良かったね」

「…ああ」


父と息子は、微笑みあった。

その時、レイはこの間から、感じていた頭の中の霧が、すっきりと晴れたのである。


リヴァーデイル公爵の、背が高くがっしりとした体つき。

鋭いグレーの瞳と、周りを威圧する迫力。

あれと同じものを、彼はつい最近見たではないか。

スターリング伯爵家の姉妹の兄、スティーブは、リヴァーデイル公爵に、生き写しだったのである。

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人生崖っぷちの伯爵令嬢ですが、黒い噂の侯爵と婚約したら、人生が好転しました 金色ひつじ @silverink

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