第4話 苦情の大洪水!治癒士なのに災害指定!?

 新人救援から数日。


 バルクはその日のうちに休暇届を握りつぶされ、協会から次々と飛んでくる派遣依頼に応じていた。


 筋肉僧侶の評判は“賛否入り乱れた嵐”のように広がり、

 ――救われた人は多く、

 ――泣いた人はもっと多かった。


 筋肉の温度と悲鳴の温度差が激しい数日間。


 ⸻


 ◆ 地獄の派遣ダイジェスト


 ―― 1日目:ゴブリン退治戦線


 盗賊は足を押さえ、青ざめて震えていた。

 毒針が刺さり、足首が紫に変色している。


 盗賊「足が毒針でっ……ひゃあああ!!?」


 バルクは素早く前へ出て、拳を軽く握りしめる。

(軽く、とは本人の感覚であって他者基準では致死に近い)


 バルク「ヒール(全力)!」


 パァンッ!!


 盗賊「痛いのに!治ってるのに!なんで!!」


 リーダー(心の声)

(味方へのクリティカル率高すぎだろ……)


 周囲のゴブリンより味方の方が悲鳴を上げていた。


 ⸻


 ―― 2日目:洞窟探索隊


 湿った空気とカビの臭いの漂う洞窟。

 魔術師が肩で息をし、壁に寄りかかっていた。


 魔術師「MP切れてもうムリぃ……」


 バルクが静かに後ろへ立ち、拳を握る。

 魔術師の背中が逃げようとして震える。


 バルク「キュア、いくぞ」


 ドゴォォォン!!


 洞窟の天井の砂がぱらぱらと落ちてくるほどの衝撃。


 魔術師「アハハハハ!!元気!AHAHAHA!!」


 隊長(心)

(テンションの上がり方が精神崩壊してない?)


 なお魔力は戻っている。

 代わりに何かが壊れていた。


 ⸻


 ―― 3日目:不死者の村


 村は薄暗く、生者と死者の臭いが入り混じっていた。

 村人たちの悲鳴が響く中、アンデッドがうろついている。


 村人「アンデッド何とかして!!」


 バルクは迷わず、


 バルク「滅ッ!!」


 ドカァァァァン!!


 拳が振り下ろされるたび、

 アンデッドは“原子の概念”に戻る勢いで粉砕される。

 しかも巻き添えで墓石とフェンスがまとめて吹っ飛ぶ。


 村人「代金?いえ!結構ですので!二度と来ないで!!」


 悲鳴と感謝が混線した叫びが夜空に吸い込まれた。


 ⸻


 ―― 4日目:緊急搬送


 担架の上で負傷者が血を流し、意識朦朧としている。


 負傷者「毒と出血でヤバい!!」


 バルクは両腕を回し、拳を鳴らす。


 バルク「連続ヒール!!」


 パァン! パァン! パァン!


 複数回の衝撃により土煙が舞うほどの治療(?)。


 負傷者

(治ったけど、余命削られた気がする)


 ⸻


 ―― 5日目:初対面の冒険者たち


 広場にて、勢いのいいパーティが新しいメンバーを歓迎していた。


 バルク「治癒士のヘルスニキだ!」


 冒険者A「よぉし回復頼むぜ!」


 バルク「ヒールいくぞ!!」


 冒険者A

「待ってそのポーズ絶対殴る――」


 パァンッ!!!


 冒険者Aは地面で転がり、

 次の瞬間に跳ね起きた。


 冒険者一同

(説明しなくても分かる!治る!痛い!)


 いつの間にか“痛いのは仕様”として受け入れられていた。


 ⸻


 協会には日ごとに、

 恐怖と感謝と怒り が混ざり合った手紙が届く。


 職員A「これ……“被害者の会”できるのでは……?」

 職員B「でも生存率は爆上がりしてる……(胃痛)」

 受付嬢(鎮痛薬を常備しはじめた)


 協会の胃薬消費は過去最高を記録した。


 ⸻

 そしてついに――

 召集命令。


 ◆ 協会長室(地獄会議)


 協会長は書類でできた山――

 いや“苦情の山脈”を机に叩きつける。


 協会長

「ヘルスニキ君。これが何か……分かるかね?」


 バルクは迷いなく言った。


「救われた仲間の声!であろう?」


 書記官(違う方向で救われてる……精神が爆散してる)


 協会長は手紙を震える手で一枚読む。


『痛かった。怖かった。助かった。ありがとう。許さない。』


 受付嬢

(感情が交通事故…)


『次は優しくして下さい。次は……次は……(震え)』


 書記官

「褒められてはいないです」


 ⸻


 協会長は深呼吸して、真正面から言う。


 協会長

「功績は認める。

 だが、生存者の何割かは君に怯えている」


 バルク「む……怯えとは、つまり敬意!」


 協会長「違う!!!」


 部屋中の空気が揺れる。


 ⸻


 だが協会長は彼を解雇しなかった。

 その戦闘力はあまりに貴重だった。


 協会長

「君の力は必要だ。

 だから……頼む。

 回復の前に “宣言” してくれ。

 殴られる覚悟を持たせてくれ……!」


 バルクは目を輝かせた。


「なるほど。信頼構築だな!」


 受付嬢(信頼ってなんだっけ)


 バルク「では今後は、

 “殴るぞ!!” と宣言してから殴る!」


 協会長・受付嬢・書記官

「「「もうちょい言い方!!!!!」」」


 ⸻


 しかしバルクは満足げだった。


「安心せよ!拙者は治癒士、仲間は絶対に生かす!!

 たとえ拳であろうとな!!」


 全員

(その“たとえ”が全てを壊してる)


 ⸻


 こうしてバルクは、

 事前殴打告知スタイル という謎の進化を遂げた。


(恐怖はレベルアップ)


 協会では今日も騒ぎが絶えない。

 胃薬の減りが、えげつない。

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