第3話 救援!来たのは回復じゃなくて災害だった

 協会に、緊急の救援依頼が飛び込んだ。

 受付嬢は顔色を変えたまま書類を握りしめ、

 カウンター越しに一人の巨漢へ向き直る。


「ヘルスニキさん!すぐに現場へ向かってください!」


 バルクは胸を叩き、爽やかに頷く。


「任せたまえ!」


 受付嬢の声は震えていた。

 周囲の職員たちも、なぜか同じように震えていた。


(……震えていたぞ。声が)


 筋肉僧侶が動くと、なぜか周囲が緊張するのである。


 ⸻


 救援対象の草原――

 そこはのどかな景色のはずだった。

 しかし今は、血の臭いと叫びが風に乗り、

 まるで地獄の入口のようになっていた。


 新人A「うわあああ!毒で視界が紫色!!」

 新人B「血が止まんねぇ!腕曲がってんぞコレ!」

 新人C「回復薬は高いんだよおお!!」


 悲鳴と嘆きが渦巻く中、

 突如、空気そのものが震えた。


 ヒュウゥウ――――ドォオオン!!!


 空から“何か”が落ちてきた。

 重力を無視した速度で叩きつけられ、

 着地地点がクレーターのように陥没する。


 土煙が上がり、草が波のように揺れる。


 新人ABC

(((なんか災害が来た!?)))


 煙の中から立ち上がる影。

 陽光を浴びて筋肉が黄金に輝く。


 バルクだ。


「拙者、治癒士。救援に参った」


 新人A「治癒士だと……!?」

 新人B「お前のような治癒士がいるか!」


 戦闘中だけどツッコミが止まらない。


 新人C「と、とにかくなんでもいいから、助けて……!」


 バルクは真剣に頷いた。


「心得た。耐えよ」


 次の瞬間──


 ──パァンッ!!!


 新人A「ぎゃん!!?

 な、なんでビンタ!? なんでビンタ!!?」


 頬が真横に揺れる。

 だがその瞬間、紫色の視界は晴れ、息が楽になる。


 新人B「物理で毒抜けるのおかしいだろ!!」


 バルクは涼しい顔で言った。


「毒など生命力の乱れ。叩けば整う」


 新人B「脳筋理論を医学にするな!」


 ⸻


 そのとき、草むらを揺らし、

 獣の腐臭を撒き散らしてオークが飛び出してきた。

 二匹。

 どちらも棍棒を振りかざし、涎を垂らしている。


 新人C「うわぁぁぁあ!!」


 バルクはゆっくりと背中のメイスを抜いた。

 鉄塊が空気を震わせ、

 その一歩で地面が沈み込む。


 バルク「邪魔だ、下郎!」


 ブンッ!! グシャッ!!


 オーク達は“元・オーク”になった。

 肉片が風に散り、草原へ吸い込まれる。


 新人ABC

(((いま何千ダメージ出た!?)))


 新人A「せ、聖職者って…もっとこう、後ろで祈る系じゃ……?」


 バルク「拙者は前で祈る主義だ」


 新人ABC

(((祈り方間違ってるぅぅぅ!!)))


 ⸻


 戦闘は続く。

 新人Bが腹を押さえ、うずくまった。


「キュア……も、殴るパターン?」


 バルク「勿論」


 ゴツン!!!


 新人B「ぐべっ!!?」

(治った。けど心が削れた)


 新人C「優しくしろ!! なんで殴らないと治らないんだよ!!」


 バルクは穏やかに微笑む。


「優しさとは、痛みを知って掴むもの」


 新人A(暴論すぎる……!)


 ⸻


 敵を全滅させ、救援は完了した。

 草原には静けさが戻り、風がそっと通り抜けていく。


 新人A「……命は助かりました、本当に。怖いけど」

 新人B「身体は全快。精神は瀕死」

 新人C「HPは全快、心の耐久値は赤ギリ」


 バルクは少し照れたように笑う。


「仲間を救うのが、拙者の務め。

 たとえそれが、拳でも」


 新人ABC

(((“でも”じゃない。“しか”だよ!!)))


 新人A「……次は……その……手加減とか……できたり?」

 新人B「マジで命は助けてほしい。心も」

 新人C「殴る技以外の取得を……真剣に検討して……」


 バルクは真剣にうなずく。


「心得た。努力しよう」


 新人ABC

(((努力目標なんだ……)))


 ⸻


 協会へ帰るバルクの大きな背中を見送りながら――


 新人A(優しいんだよ、根は。根は優しいんだよ……)

 新人B(たぶん……救い方だけ致命的に間違ってる)

 新人C(次も会いたい。でも会いたくない)


 今日もひとつ、

 バルクの拳に救われた命が増えた。


(精神にクリティカルヒットを添えて)《《》》

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