第2話 初派遣!野盗アジトで拳と治癒!!

 協会からの初任務は、王都近くの森に巣食う野盗の討伐だった。

 依頼書はまだ新しい紙の匂いがして、

 そこに書かれた「危険度:中」の文字が妙に軽く見える。


 派遣されるのは、冒険者三人組のパーティ。

 そこへ、胸板を誇らしげに張り、

 朝日を受けた筋肉が金色に輝く――ひときわ巨大な影が現れた。


 バルクである。


 彼は拳をそっと握りしめ、

“仲間を守る” という決意を胸に、集合地点へと歩みを進めていく。

 一歩ごとに地面がわずかに沈む。


 仲間を守るため。

 そして――拳で。


 ⸻


「おーい! そっちのデカい兄ちゃんか?」

 声を張り上げたのは剣士ガイル。

 筋骨隆々の男が近づいてくるバルクを見て、思わず半歩引く。


「うわ肩幅……壁かな?」

 ミーナが呆れたように、しかし興味深く呟く。


「てかプロテイン片手に来る僧侶いる……?」

 後ろでレオンが目を細め、警戒と好奇心が入り混じった視線を向けた。


 バルクは爽やかに微笑む。

 白い歯がやたらと眩しい。


「拙者、治癒士バルク。仲間は何があっても守る!

 傷ついても安心せよ。殴って治すゆえ!!」


 三人

(安心できねぇ!!)


 ⸻


 森へ向かう途中、木々が風にざわめき、

 鳥の鳴き声が遠くでかすかに響く。

 その自然の音の中で、バルクの足音だけは異様に重かった。


 ガイルが口火を切る。


「敵は6~7人って話だ。俺が前衛で押さえて、ミーナが背後から――」


 バルクは拳を握りしめ、

 関節がぎしりと鳴る。


「任せよ。敵は全員、滅だ!!!」


 レオン「力押ししかねえんだな!!?」


 ミーナ「どんなヒールするのか見てみたいけど……

    できれば私に撃たないでね?」


 バルクは親しげに頷く。


「心配無用。痛みは心を強くする。

 全員、強靭なる戦士と化そう!!」


(いらない訓練だ!!!)


 ⸻


 野盗のアジトが見えてきた。

 ボロ小屋が点々と並ぶ。煙草の煙が漂い、

 どこか獣臭い空気が周囲に立ち込めている。


 ミーナが前へ出る。


「私が偵察に――」


 ガイル「音立てんなよ」


 ミーナ「失礼ね!」


 バルクは深く頷き、

 低い声で言った。


「音を立てるのは良くない。拙者、静かなる者……」


 しかしその直後、

 地響きのような振動が走った。


 ズンッ ズンズンッ


 バルクがアジトへ向かって歩き出していた。

 踏みしめるたび、土が波打つほどの重量感。


 ミーナ「揺れてる揺れてる揺れてる!!」


 ⸻


 その瞬間、ボロ小屋の扉が乱暴に開いた。


 野盗A「誰だテメェら!!」


 ガイル「…ああ、もう…! とにかく行くぞ!!」


 ミーナ「り、了解!」


 レオン「魔法準備する!」


 全員が動き出すが、

 出てくる敵は想定外。

 少なくとも10人以上。武器を構え、囲みながら迫る。


 ガイル「くっ、数が多い!」


 レオン「囲まれるぞ!」


 そしてバルクが一歩前へ。


「任せよ。拙者の出番だ!」


 ガイル「いや、お前後衛……って大丈夫か!頑張れ!!!!」


 野盗Bが剣を掲げて迫る。


「まずは後ろのデカいのから――」


 しかしバルクの踏み込みは、

 地面を砕くほど深く、速い。


「滅!!!!」


 ブォンッ!!


 巨大メイスが唸り、

 空気ごと敵を押しつぶす衝撃波が巻き起こった。

 野盗三人が一列に並んだまま吹き飛ぶ。


 野盗たち

(僧侶の範囲攻撃じゃねえ!!)


 レオン(普通に殴り殺しに来てるやつ……!)

 ミーナ(僧侶が一番前に出てるのウケる……!)


 ⸻


 しかし敵はまだ残っている。

 死角から刃が走り、ガイルの肩を裂いた。


 ガイル「ぐあっ……!」


 すかさずバルクが跳んだ。

 巨体とは思えない速度で。


「ヒール!!」


 バシィィィン!!!


 全力の平手打ちがガイルの頬を揺らす。

 赤い手形が浮かぶほどの衝撃。


 ガイル

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁ!!?」

(今死んだ!!絶対!!)


 しかし傷は跡形もなく消えた。


 ミーナ「ある意味回復してないよね!?」

 レオン「致死ダメージ受けてね?」


 バルクは構わず連撃を叩き込む。


「立て! まだ終わっておらん!!

 根性! キュア!!」


 ドゴォン!!!


 拳が背中を貫く勢いで叩き込まれた。


 ガイル「ぎゃはああ!!!」


 元気になってしまった。

 肉体は。

 心は置き去りだ。


 ⸻


 野盗たちは完全に戦意喪失。

 バックしながら震える。


 野盗A「やべえ……あいつなんなんだよ……!」

 野盗B「化けもんだ……!!」


 ミーナ「ほら、逃げる気だよ!」

 レオン「追うか!?」


 バルクは仁王立ち。

 背に夕日を背負い、影が地面に巨大に伸びる。


「逃がさん……!

 罪は、筋肉で償わせる!!!」


 ミーナ(筋肉で償うとは……?)


 次の瞬間、バルクが爆発したように動いた。


 ズドドドドッ!!!


 巨体とは思えない速度で大地を割りながら突撃。

 野盗たちは悲鳴を上げる。


 野盗全員

「ひぃぃぃ!!!!」


 次々と吹き飛び、

 アジトはまるで自然災害を受けたかのように壊滅した。


 ⸻


 全員拘束し、任務完了。


 ガイル「助かったよ……マジで殺されるかと思ったけど………味方に」


 ミーナ「僧侶の治癒で泣く人初めて見たし」

 レオン「回復が恐怖体験って何……?」


 バルクは親指を力強く掲げた。


「皆、よく戦った!

 お前たちの筋肉に乾杯だ!!」


 三人

(褒められてるけど……複雑……)


 ガイル「まあ、ありがとな。

    もうちょい優しく頼む……?」


 バルクは爽やかに笑った。


「何を言う!

 痛みは魂の喝!! 仲間の絆は拳で育つ!!!」


 ミーナ「拳で育てないで! 拳で!!」


 ⸻


 協会に帰還し、報告書が提出される。


 報告書:

【ミッション成功(物理)】

【負傷者ゼロ(精神的ダメージはカウント外)】

【アジト壊滅(木っ端微塵)】


 受付嬢「……あの……すごい……ですね……(震)」


 バルク「ふむ!褒められた!!」


 受付嬢(褒めてない……!!)


 ⸻


 こうしてバルクの初任務は成功した。

 命を救い、たくさん殴った。


 仲間は思う。


 助かるのは嬉しい。

 でも命より大事な何かが削られた気がする。


 それでもバルクは胸を張って言う。


「仲間は絶対に守る!

 倒れたら、拳で立たせる!!

 これぞ筋肉僧侶の治癒道!!」


 ――物理治癒士、今日も健在。

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