仁義なき戦い。女神スイカ VS ブランド西瓜
それは、日本への一時帰還テストを行っていた時のことだ。
ハルト、澪、鉄平、スイカの4人は、南魚沼市の北部に位置する『大和(やまと)』地区を歩いていた。
季節は夏。
盆地特有の蒸し暑さが、一行を襲う。
「あづい……。なによこの暑さは……。魔界の焦熱地獄より湿気があるじゃない……」
破壊の女神スイカが、ぐったりとして鉄平の背中に張り付いている。
認識阻害の魔法をかけているため、周囲からは「仲の良い家族連れ」にしか見えていない。
「もう少しの辛抱だよ、スイカちゃん。
この辺りに、すごーく美味しい『名物』があるって、父さんが言ってたから」
鉄平が汗を拭いながら励ます。
先頭を歩くハルトが、一軒の直売所を指差した。
「あったぞ! あそこだ!」
直売所ののぼり旗には、大きくこう書かれていた。
『甘さ爆発! 南魚沼の至宝・八色(やいろ)スイカ』
◆ ◆ ◆
「……は?」
スイカ(女神)が、ピタリと足を止めた。
その深紅の瞳が、のぼり旗の文字を凝視する。
「八色……スイカ……?」
彼女の身体から、ゴゴゴゴ……と不穏な神気が立ち上る。
「て、鉄平。アレはどういうこと?
『スイカ』というのは、私の名前よね? あなたがつけてくれた、唯一無二の相棒の名前よね?」
「う、うん。そうだよ」
「なのに……!
『八色』ですって!?
私以外に、あと7人も(・・・・・・)スイカがいるというの!?」
まさかの勘違い。
女神エリスは、「八色のスイカ(8人のスイカちゃん)」という、謎のアイドルグループか戦隊ヒーローのような存在を幻視していた。
「違うわよ、スイカちゃん」
澪が苦笑しながらフォローに入る。
「『八色』っていうのは、この地域の地名(旧・八色原)のこと。
そしてスイカは、果物……というか野菜の西瓜のことよ」
「野菜……? 私が、野菜と同じ名前……?」
スイカはショックを受けた。
だが、すぐに気を取り直して、直売所に並ぶ巨大な球体たちを睨みつけた。
「ふん。なるほどね。
つまり、この緑色の縞々ボールが、私のライバルってわけね」
「いや、食べ物だから」
「黙りなさい鉄平! これは『名前被り』という、アイデンティティを懸けた聖戦なのよ!」
女神のプライドに火がついた。
彼女は直売所のおばちゃん(ハルトの知り合いではない)に、ビシッと指を突きつけた。
「そこの人間! 一番大きくて、一番高いヤツを寄越しなさい!
私が直々に……『破壊(実食)』してあげるわ!」
◇ ◇ ◇
数分後。
近くの公園のベンチにて。
目の前には、見事に切り分けられた『八色スイカ』が鎮座していた。
黒く輝く種。
鮮烈な赤色の果肉。
そして、皮のギリギリまで詰まった甘い香り。
ゴクリ。
スイカ(女神)の喉が鳴る。
「み、見た目は……まあまあね。
でも、肝心なのは味よ。私の神の舌を満足させられるかしら」
彼女は一切れを手に取った。
そして、ガブリと噛み付く。
シャクッ!!
いい音が響いた。
八色スイカ特有の、硬めの果肉が生み出す、絶妙なシャリシャリ感(シャリ感)。
そして、口いっぱいに広がる、濃厚かつ爽やかな甘み。
「んっ……!?」
スイカの動きが止まる。
「な、なにこれ……!
甘い……! 砂糖水みたいに甘いのに、後味がスッキリしてる!
それにこの食感……! 歯ごたえがあるのに、口の中で解けていく……!」
シャク、シャク、シャク!
止まらない。
破壊の女神は、無言で二口目、三口目へと進む。
口の周りを果汁でベタベタにしながら。
「くっ……! 認めたくない……!
認めたくないけど……美味しいじゃないのよぉぉぉッ!」
敗北宣言。
彼女は涙目で、皮の白い部分が見えるまで食べ尽くした。
「ぷはぁっ!」
完食。
スイカはベンチにだらりと背中を預けた。
「……負けたわ。
八色スイカ……恐ろしい子。
私の名前を冠するに相応しい、魔性の果実ね……」
「気に入ったみたいだね」
隣で、同じくスイカを食べていた鉄平が笑う。
「うん、美味しい!
異世界の果物より、ずっと味が濃い気がするよ」
鉄平は、種をプッと飛ばして、満足げに言った。
「やっぱり、『スイカ』は最高だなぁ」
その言葉に。
女神スイカが、ビクリと反応した。
「……て、鉄平」
彼女はジト目で少年を睨む。
「あんた、どっちの『スイカ』のことを言ったの?」
「え?」
「だから! その甘い果物のことなのか!
それとも……私のことなのかって、聞いてるのよ!」
まさかの、自分 VS 果物。
面倒くさい彼女ムーブを発動させる女神。
澪が「うわぁ……」という顔でハルトを見る。
「ねえハルト。あの子、完全にあなたの遺伝子(女たらし)の被害者よね」
「いや、あれは鉄平の天然ジゴロスキルのせいだろ」
親たちがヒソヒソ話す中、鉄平はキョトンとして、それから困ったように微笑んだ。
「決まってるじゃないか」
鉄平は、自分の食べかけのスイカを置いて、ハンカチを取り出した。
そして、女神スイカの口元についた果汁を、優しく拭ってあげる。
「食べるスイカも好きだけど。
僕が一番大好きな『スイカ』は、君だけだよ」
◆ ◆ ◆
ボォォォォォン!!
女神の顔面が、完熟トマトのように爆発した。
「あ……う……ぅぅ……」
破壊の女神、再起不能(リタイア)。
あまりの恥ずかしさと嬉しさに、彼女はオーバーヒートを起こし、鉄平の肩にコテンと頭を預けた。
「……バカ鉄平。
……調子狂うわよ、本当に……」
そう呟く彼女の手は、しっかりと鉄平の服を掴んでいた。
「はいはい、ごちそうさま」
澪が呆れながらも、温かい目で見守る。
「とりあえず、お土産決定ね。
魔王城のみんなにも、この『八色スイカ』を買って帰りましょう」
「ああ。リリスに頼んで、魔王城の畑でも栽培してみるか」
ハルトが提案する。
「えっ!? 栽培するの!?」
復活したスイカが叫ぶ。
「私のライバル(野菜)を増やす気!?
……で、でも、美味しいから……毎日食べられるなら、許してあげるわ!」
こうして。
南魚沼の夏空の下、女神と特産品の戦いは、平和的な和解(完食)に終わった。
後に魔王城の畑では、リリスとシルヴィアの品種改良により、爆発的な甘さを持つ『魔界八色スイカ』が誕生し、ハルモニアやリーナたちに大絶賛されることになるのだが……。
それはまた、別のお話。
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