第2話 A or not A
私はアルコール血中濃度の致死量を調べた。
文献で調べるのは面倒なので、
近ごろ便利な生成AIに聞いてみる。
「お酒の致死量を教えて?」・・・と。
回答は以下のようなものだ。
「血中アルコール濃度について
医学的な基準(酩酊度)では
以下のようになります。
・0.1%前後(ほろ酔い)
陽気になる。顔が赤くなる。
・0.3%以上(泥酔)
立てない。意識が混濁する。記憶がない。
・0.4%以上(昏睡)【危険域】
呼吸中枢が麻痺し、
そのまま死に至る可能性が高い」
ヘネシー700mlの純アルコール量は
約224g
生成AIの比較では
・ビール(ロング缶500ml)約11本分。
・ウイスキーのショット 約22杯分
となる。
私は50kgもない低体重だから、
このとき血流のアルコール濃度は
0.6%〜0.7%になる。
導かれる結論は・・・
私の脳の神経細胞が
血中濃度0.6%〜0.7%で麻痺せず、
機能を維持していたという事実。
事実は小説より奇なり。
まさか自分の体質で、この格言を実感するとは、笑い話みたいな偶然だ。
私はこの時、別の話を考えていた。
私には不思議に思うことがたくさんある。
せっかくなのでふたつほど、
例を挙げてみよう。
私には特技がふたつある。
まずひとつ。
私は静脈の収縮と拡大を意識的にできる。
最小は約1ミリ、最大は約6ミリ。
手の甲で見ると分かりやすく
1ミリの時は皮膚の下にうっすら見える程度。
6ミリの時はストローくらいの太さになり、目に見えて血管が浮く。寒暖の調節に便利だ。
変な特技だけど、10ミリに超拡大するとか、ゴムみたいな拡張はできないので、人間の規格の範疇で、自律神経を使えていると思う。
もうひとつ。
私は目をつむった状態で
視覚の明るさを調整できる。
目をつむった状態で、
もう1段階目をつむることができるし、
反対に明度を上げて、
視界を真っ白にすることもできる。
明度を上げた場合には、
方眼紙のようなグリッド線が見える。
幻視幻覚かとも思うけど、
試せば再現性があるので、
私にとっては、それが通常の認識になる。
もちろん誰も真似できないと知っている。
できたところで、事務仕事が楽しくなるわけがないので、どうでもよい話だよね。
どうでもよい話だよね・・・
と思っていた。今日、この時までは。
ヘネシー700mlの空ボトルと、
生成AIが表示した人間のアルコール致死量を交互に見て、私は思う。
私は間違いなく人間だ。
人間の遺伝子を持つ、ごくふつうの社会人。
今年で32歳になって、
そろそろ独り身もつらいなー?
よよよ、さびしいなー?(´;ω;`)
なんて思い始めた、
つつましやかな独身貴族だ。
しかし人間は・・・
40度700mlのアルコール量で死ぬらしい。
自律神経のセミオートができないらしい。
明度の調整もできないらしい。
「・・・へえ?」
この日、私は生まれて初めて
おもしろい気分で笑った。
私は人間だ。これは間違いない前提だ。
しかし、A or not A・・・
この命題は、果たしてどうなるだろう?
家族、親類、赤の他人、
すべてを引っくるめて・・・
私が人間であるならば、
この人たちは、なんなのだろう???
人間とは、なんなのかな?
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