第11話 加藤隆俊の本心


 5月21日


 加藤隆俊は嘘で塗り固められている。


 薄っぺらい言葉しか吐けず、正義感を振りかざす割に自分の事は棚に上げる。


 簡単に周囲に流されるし、意思や意志も弱い。


 さあ……何処から話そう。


 まずは、幼馴染の湊斗からか。


 俺は、アイツが少し苦手だ。

 湊斗は俺の醜い部分を浮き彫りにしてくるから。


 俺は自分の汚い部分なんて知りたく無いのに。


 良いじゃないか、綺麗な部分だけ見てたって。


 俺は傷付きたくないんだ。


 それが普通だろ?


 取り繕ってるだけで、誰だってそう思っているはずだ。


 俺は間違ってなんかない。


 確か― ―中学3年生の時だ。


 葵が余計な事を言って、男子と揉める事件が起きたのは。


 俺は巻き込まれるのが嫌で遠目に眺めていた。


 男子が手を上げようとした時。


 俺は目を逸らした。


 ああ、何でこんな嫌な光景を目にしなきゃいけないんだ。


 運の悪い日だな、何て思いながら。


 でも、その瞬間は訪れなかった。


 湊斗が間に入って代わりに殴られたからだ。


 俺はアイツが妬ましかった。


 庇うなんて、俺には出来ない。


 痛い思いなんてしたくないじゃないか。


 それなのに庇って、代わりに頭まで下げて謝って。


 俺は後ろめたくなった。

 自分の醜さを突き付けられたようで。


 それから俺は湊斗が苦手になったんだ。


 次は……葵について語ろうか。


 中学に入学してから、すぐに話すようになった女子。

 気性が荒いのが玉に瑕だけど、話し易いタイプだった。


 一緒に過ごす時間は楽しかったけど、湊斗をないがしろにするところがあった。


 馬鹿にして邪険に扱う。

 それが俺は少し苦手だった。


 でも、それも指摘できなくて。

 友達に嫌われるのが怖かったから。


 高校に入学してから、俺には気になる女子が出来た。


 内島うちしま 真尋まひろという優しい子だ。


 時間は掛かったけど、付き合う事も出来て。


 友人にも恵まれて恋人も居る。

 順風満帆な学校生活だって、そう思っていた。


 ― ―彼女に振られるまでは。


『隆俊は……自分の事が好きなだけじゃ無いの……? 気付いてる……? 隆俊……わたしに好きだって言ってくれた事、一度も無いんだよ……?』


 それは事実だった。


 でも……

 

 『そんなの言葉にしなくても分かるだろ?』


 俺のその言葉に― ―


『……隆俊は……そうだよね。……あの……わたし、他に好きな人が出来たの……。だから、別れて欲しい』


 真尋は別れの言葉で返した。


 あの時― ―

 

 何故、真尋が泣きそうな顔をしていたのか。

 

 酷く悲しそうにしていたのか。

 

 それは分からない。


 でも、裏切られたショックと怒りが湧いた。


 おかしいじゃないか。

 浮気したワケでも、目移りしたワケでもない。

 一途だったじゃないか。


 それなのに一方的に心変わりなんて。


 女子への不信感が募った。


 


 許せないって、思ったんだ。


 それからは辛い出来事が続いた。


『退屈』


 その陰口は本当に悲しくて。

 何様のつもりなんだ、と憤りも感じた。


 挙句の果てに、葵が俺を避けるようになるし。


 湊斗には感謝してる。

 惨めな俺を気に掛けてくれた。


 葵じゃなくて、俺を。


 卑怯者の俺なんかを。

 不器用な癖に必死に心配してくれたんだ。


 でも……アイツと居ると劣等感も刺激される。


 だから、距離感を測りかねてギクシャクした。


 このままじゃダメだって、そう思うのに。

 俺は逃げの一手しか打てなかった。


 葵の態度が怖くて、逃げる事しか出来なかった。


 どうしても真尋の事を思い出すから。


 でも、大橋さんの言葉に救われたんだ。


 彼女に言われると、不思議と信用出来る。


 大橋さんは、真尋とは違う。


 きっと、裏切らない。


 競争倍率が高いのは分かってる。


 でも……彼女ならって。


 俺はそう思ったんだ。

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