第2話 女神のおもちゃ
暗い暗い、まどろみに意識がどんどん沈んでいく私の耳に、うっすらと声が聞こえてくる。
「 『呪い』とは失礼ね。『女神の祝福』と言ってくれない? 」
まぶたをスっと開けると、仰向けで寝ている私の前に美しい女性が、というか、私と瓜二つの顔を持つ女性が微笑んでいた。
白装の衣を身に着け、存在感が圧倒的にあふれている。
私は真っ白い神殿の安置台に寝かされているようだ。
気だるい身体を起こし――。
「こ、ここは……? それにあなたは……? 私は生きているの?」
たしかに、私は通学中に男たちに襲われ、美奈子を守って命を落としたはず――。
なのに、なんでこんなところに――?
瓜二つの女性は妖しく微笑み。
「ワタシは女神カーマ。ここは女神の神殿よ。いちおう……生きているかな?」
女神? 私は死んで天国にいるの?
「 あなたにはやって貰いたいことがあります 」
「えっ? 何?」
「――『100人の悪役令嬢』をぶち殺してください♡ そうしたら神スキルをひとつあげる」
はァ? この女、なにを言って……。
『悪役令嬢』……たしか、ラノベで流行っている単語だ。
詳しくは知らないけど、言葉どうりの意味でいいのだろうか?
それを殺害? 意味がわからない。
「……説明して、なんで死んだ私が生きているの? 悪役令嬢を100人殺せってどういう意味。それになんであなたは私とそっくりなの? すべて説明して」
「知らないほうがいいわよ。それでも聞きたい?」
神妙な顔つきでこくりと。
「いいわ。あなたは一度死んだ。そして女神であるワタシの力で蘇らせ、ここに連れてきた」
本当にこの女は『女神』なのだろか? だが――。
「悪役令嬢を100人殺せとは……?」
「ワタシね、人が苦しむ姿を見るのが大好きなの……」
「はあ?」
いきなり何を言っているんだ?
「それも大勢の人々がもがき苦しむ姿が……」
うっとりとした表情で身をくねらせている。
もう悪魔にしか思えない。
「どうしたらワタシが望む光景を見れるのか 真剣に考えたわ……とてもとてもね……」
イカれてる。私も大概だがこの女にはまったく及ばないだろう。
「そうだ! 男に裏切られ自殺した女性を異世界に転生させれば、憎しみで世界をメチャクチャにするんじゃないかって思ついたの。 そして、100人の哀れな女性に、ワタシが持つ神スキルのひとつと、レベルMAXの肉体を与えて異世界に転生させた」
もう頭が追いつかない。世界をメチャクチャとか転生とか理解の範疇を超えている。
「思惑どうり彼女たちは全員 悪役令嬢になって、世界をメチャメチャにしてくれたわ……」
ひとつ言えること。それは目の前にいる女がとてつもなく醜悪だということだけだ。
「でも、誤算があった……。やりすぎたのよ彼女たちは。結果には満足してる。見たかった光景を見れてとても嬉しかったわ。でも、その行為が上司に気づかれた。正確には、気づかれそうになっている。このままじゃ女神の資格剥奪されちゃう。だから上司にバレる前に、調子こいた悪役令嬢100人を皆殺しにすることにしたの」
この女 終わっている……。どうしようもなく身勝手で暴君だ。
一番終わらせるべき存在なのは――。
「女神は下界に直接介入することはできない。人間を異世界に転生させることしかできない。だから計画実行の尖兵に選んだのがあなたよ、山田 彩華」
「……ふざけるな。そんなことを私がすると思っているのか?」
睨みつけると、女神は妖しく頬笑んだ。
「するわよ、絶対。そういうふうに、ワタシがあなたを『造った』んだもん」
「……『造った』? 何を言って……」
一瞬でその意味する可能性にたどり着いてしまった。
「考えたの。誰にそんな大役を任せるかって。でも、ワタシは誰も信じることはできない。信じられるのはワタシだけ……。ああ、そうだ……! ワタシのクローンを造って、そいつにさせればいいんじゃないって」
「――っ!」
それが……私か――。
瓜二つなのはそのためか。
「神スキルを使って、魔法でクローンを造った。さすがに女神の力までは継承させることはできなかったけど、生前の人間だった頃のワタシの完璧な複製ができたわ。そしてあなたが『呪い』と言った、思想も行動原理も性格もその時に植え付けた。100の異世界を救うため、100人の悪役令嬢をぶち殺せる勇者になれるようにね」
すべては、この女が元凶……。
「あとは赤ん坊にして孤児院の前に転移させてあなたが成長するのを待った。 あなたにはワタシの力で過去に行ってもらい、異世界がメチャメチャになる前に対象者を殺害してもらう。『未来改変』よ。そういうのって人間は大好物でしょ? 完遂できたら100の神スキルのひとつと、レベルMAXの肉体をあげて、どこにでも好きな異世界に転生させてあげる」
「もういい、わかった」
「わかってくれたの? やってくれるのね。さすがワタシのクローンね」
嬉しそうにする顔がとても不愉快だ。
何もわかっていないクセに。
「私は、自分がなぜ生まれてきたのか、その理由がわかった」
そう。完全に使命を理解した。
「さすが、ワタシが待ち望んでいた
「女神カーマ。お前をここで滅ぼす!」
自分を造った創造主に反旗をひるがえす。
いや、そう造ったのはお前だ、悪役女神――。
お前自身の力で、この世から完全に消してやる!
第3話 『悪役女神討伐』に続く。
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