悪役令嬢狩り − 100人狩ったら神スキルをあげる♡ −

佐藤ゆう

第1話 呪い

 私はかっこいい自分が大好きだ。


 誇りを持って人生を歩んできた。


 そして最後は、誇りを持ったまま かっこいい死に様を望む。


 それが胸に秘めた私の『呪い』――。


 ◆


『天上山女学院』――。


 東京郊外にある、世界有数の名家のお嬢様たちが通う有名な進学校。

 そこに向かうための桜咲く並木道を、流麗な黒髪の美少女が優雅に歩いていた。

 人心を引きつける魅了を振りまく彼女に、遠くから声が掛けられる。


「お姉さまぁ!」


「美奈子……」


 可愛らしい少女が走って近づいてきた。


「はあ、はあ、はあ……。お姉さまぁ、今日もかけ持ちで部活ですか?」


「ええ。ソフトボール部と合気道部と華道部よ」


「さすが、お姉さまですねぇ♪」


 華がある2人の様子を、周囲の生徒たちが注目していた。

 

「見てみて、生徒会長の『山田 彩華』様と副会長の『華河 美夜子』様よ」


「副会長である美奈子様は家柄で選ばれましたけど、彩華様はその圧倒的才覚とたゆまない努力で、歴代最高の得票数で会長に選ばれた才女」


「ああぁ、憧れるぅ……。容姿端麗、学業スポーツ、全てにおいてパーフェクト……」


「性格だっていいわよ。休み日には、ボランティア活動に従事し、幼い時に子犬を助けるために火事の家に飛び込んだという噂もありますわ」


 女学生たちは「やっぱり、憧れるなぁ〜」っと。


「お姉さま。みんなお姉さまのこと噂してますね……ふふふっ。わたしもお姉さまのように かっこよくなりたいです」


「……やめて、おいた方がいいわ……」


「え?」

 

 きょとんとする美奈子に、暗い表情でつぶやいた。


「……つまらない人生よ……」


「それは、どういう……?」


「『呪い』なのよ……これは……」


「?」


 さらに怪訝な顔をする美奈子の後ろから、黒のワゴン車が猛スピードで迫ってきた。


「美奈子……!」


 激突する寸前、彩華は美奈子を抱きしめ、ワゴン車を横っ飛びで避ける。


 急ブレーキをかけワゴン車は、倒れ込む2人の十数メートルほど離れた場所に停車する。

 3人の男たちが扉を開けて降りてきた。


 頭にはゴム性の『カメレオンマスク』をずっぽり被り、手には『拳銃』が持たれていた。


 腰を抜かす美奈子を抱かかえたまま、道路に停めてあった車の後ろに身を隠す。

 そして混乱する頭で状況を巡らせる。


( ……なんなの、あいつら? 完全に美奈子のことを殺そうとしていた……。怨恨? 美奈子の祖父はたしか政治家で、黒い噂がかなりあった。その関係? 人質にするつもりはない。あきらかに美奈子の命を狙っている。このままじゃ美奈子は……そして『私』は…… )


 そう。 『私』は死にたくない。生きたい――。

 でも、死ぬ以上に怖いことがある――それは―――


 怯える美奈子に、最後になる笑顔を向ける。


「……美奈子、ごめんね……」


「えっ、お姉さま?」


 ワゴン車から降りた男たちが、身を隠す私たちに走って近づいてくる。


「 助けてください 」


 車の陰から両手を出した。

 男たちの動きがピタリと止まる。


「 私は何も関係ない。お願いします。殺すならこの子だけにして 」


「お、お姉さま……」


 涙目で震える美奈子を置いて、両手を上げたまま車の陰から姿を出した。


( ごめんなさい、美奈子……)


 車から数メートル離れると、男たちは私から視線をはずして隠れる美奈子に近づいていく。


 その瞬間、私は全力で駆け出した。

 陸上部で鍛えた100メートル11秒フラットの脚力で男の1人に近接する。


( ごめんなさい、美奈子……! 約束守れそうにない……! )


『 お姉さま。一生わたしのお姉さまでいてくださいね 』


 可愛いらしい後輩の笑顔が脳裏に浮かんだ。


 膝を突き出し、呆気に取られる男の下半身に一撃。


「うげぇぇぇぇぇッ!」


 うずくまる男を無視して次のカメレオンマスクの男に向けて走った。

 

「こ、この、アマァ―― !」


 パン パン パン。


 拳銃から3発の弾丸が撃ち込まれた。


 右肩、腹、左手の甲に直撃するが、激痛をこらえて空手部で習ったハイキックを男の後頭部にぶち込んだ。

 ぴくぴくと倒れ込む2人。

 残りあと1人――。

 

「はあ、はあ、はあ……」


 身体中から血が流れ、朦朧とする意識のなか、最後に残った男を鋭く睨んだ。

 

「……な、なんなんだ、この女はァ……! イカれてやがる……!」


 ――失礼ね。かっこいいって言ってくれない?――


 パン パン パン パン パン パン


 6発の弾丸が打ち込まれ、頬をかすめ、右太ももに一発当たっただけでほぼすべて空を切った。


 全身全霊を込めて、怯えて狼狽する男の『喉笛』にガブリと噛みついた。

 弾丸を4発喰らった私には、もうこれ以外の攻撃手段がなかったのだ。


「 ぐぎゃああああああッ! 」


 叫び声が止まるまで噛み続け、男は倒れた。

 息を切らせて地面に仰向けになる。


「 お姉さま――ッ! 」


 蒼空を見上げる私の瞳がさえぎられ、美奈子の泣き顔を映り込んだ。


「お姉さまぁ……! お姉さまぁ……! 嫌あああああッ!」


( ……ごめん、美奈子、あなたを泣かせてしまって……。でも、いまとっても…… )


 『 満ち足りてるの…… 』


 だって、かっこよく生きて、かっこよく死ぬのが、私の望 み呪いだったから――。


 第2話 『女神のおもちゃ勇者』に続く。

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