Ep.003:ようこそエタノシア
あの質量、あの速さ、あの硬さにまともに張り合えば俺の肉体は確実に挽肉に変わるだろう。
——ついさっきまでなら。
今の俺には不思議な確信がある。
アレを受けても、怪我はするだろうが一撃で死にはしない。
「なぁ、レーヴァテイン」
『なぁに、お兄ちゃん』
「アレ、切れるか?」
白銀の剣と化した彼女に問う。
剣と会話するのは妙な気分だが不思議と違和感は感じない。むしろ何だかしっくりくる。
『モチロンよゆーよゆー。スパッといけるよ! バターだぜぃ』
「んー、それはそれで問題だなぁ」
『えーっ、なんでぇ?! やっちゃおうよスパーっとさ』
罷り間違って一撃で殺してしまったら情報が聞き出せない。それはとても困る。
だからあの巌の鎧を削ぎ落とし無力化させるのがベスト、なんだけど……。
「まぁだ加速すんのかよあの岩団子」
気付けば残像を残して転げ回る兵士隊長。
広間に風が吹き荒んでいる。
「しゃーない。シンプルに行こう」
『私使わないのー?』
「仕上げで使うから待ってなさい」
レーヴァテインを石畳に突き立てて、肩を回す。
それからグッグと全身のストレッチ。
準備運動これ大事。
「随分と余裕だなぁ!!
こちらは準備できたそら行くぞぉらぁぁぁぁぁっ!!」
巌の弾丸が超高速で唸りを上げながら俺へと真っ直ぐに突っ込んでくる。全てを轢殺する死の砲丸。
それが目の前に来た時、俺は腰を沈めて手を開き、待ち構える。
「正面から受ける気か! なるほど見上げた野郎だ!
そのまま肉片になってしまえぇい!!」
「……はっけよい」
次の瞬間、遺跡を震わせる轟音と地響きが世界を揺らした。足が滑り押していかれる。それをなんとか踏み止まって正面の圧力に相対すれば、それで決着だ。
距離にして2メートル程押し切られただろうか。巨岩の回転が、止まった。巌の鎧は俺の腕の中で静止している。
古代遺跡場所一本勝負。勝負あり、だ。
予想通り、俺の身体能力はバカみたいに向上している。
あの大岩受け止めておいて怪我一つない。
「レーヴァテイン!」
『はいはーい!』
彼女の名を呼べば石畳から俺の右手にすっ飛んでくる白銀の剣。
「それじゃ、カットの時間だぜオッサン」
そこから先は早かった。
彼女の言う通り巌の鎧はバターの様にするすると切れて、巨大だった巌はもはや人の形を模したモニュメント。
顔の部分を殴って壊せば兵士隊長の顔が出て来た。
「こ、ころさないでくれ!」
開口一番命乞い。なんとも情けない姿。
だから俺は同じ言葉を返してやる。
「まだ殺さないって。聞きたいこともあるしな」
「なんでも! なんでも話しますからぁ!」
ふむ、なんでもねぇ。
「じゃあまずここはどこだ」
「ライン帝国の領土——ぐふぅ!」
それはさっき聞いたと頬を殴る。
欲しい答えはそれじゃない。
「そうじゃなくてさ。この世界は何だって聞いてんの」
「こ、この世界はエタノシアって言われてる!」
エタノシア……そういえば電車のアナウンスでも言ってたな。なるほどここはエタノシアっていうのか。
「で、あんたらは何しにここへ」
「総統閣下からの命令で棺を回収しろと。中には古代兵器があるって聞いてたんだ間違いじゃない!」
視線を向けた先には赤毛の少女に戻ったレーヴァテインが鼻歌混じりで爪を磨いている。
「〜♪」
「あれが?」
「具体的なことは知らされておらんのだ!」
確かに。末端に具体的な情報が行かないのは会社と一緒か。世知辛いねぇ。
「んで、なんで俺襲ったかなぁ」
「エタノシアは全土戦争中なのだ! 間者を殺すのは当然だろう!」
「ちなみに主にどことどこの」
きっと主要な地名が出てくるだろうから聞いてみる。
「我々の栄えあるラインクラフト帝国、グライツェン王国、オシラトリ連邦の三大国が三つ巴の戦いをしている。他の小国も巻き込んでな」
「なぁるほどねー。そりゃまた厄介なところに来ちまったもんだ」
そんなヤバい戦争してる世界にご案内してくれたのかあの電車は。これじゃまるで話に聞く異世界モノじゃないか。
「あ、あとは何を話したら解放してくれるんだ」
「じゃあ一番大事なこと。どうやったら元の世界に帰れるかな」
もしかしたらエタノシアでは俺の居た世界があるという常識が存在する事に賭けて聞いてみた。まぁ、期待は薄いけど。
「? 元の……世界……」
「あ、知らなそうだね。じゃ、バイバイ」
隊長殿の首の骨をコキュっとへし折って息の根を止める。
ここで生かして返せば碌なことにならないと俺の直感が告げている。いや直感も何も、更に大勢の軍勢で攻めてこられるのが嫌なだけなんだけれど。
とはいえだ。
まさか異世界転生だなんて。
そんなファンタジーに巻き込まれるなんて本当碌な人生じゃない。
爪を弄っている“妹”の事もあるし。
元の世界への手掛かりは今の所なし。
ああ、前途多難だ……。
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