Ep.004:妹を名乗る不審者(剣)

 殺した三人の墓に手を合わせる。


 兜やらを使って掘った穴に遺体を埋めて、彼らの剣を墓標にした簡素な墓。

 あのまま放置するのは忍びなかっただけ。ただの自己満足。


 ……それと恐怖。


 成り行きとはいえ。自分の命が掛かっていたとはいえ。この手で人を殺めたというのに

 実感がまだないだけ? いや。少なくとも兵士隊長の首を折った感触は確かにこの手に残っている。


「ねぇ、終わった? お兄ちゃん」


 許しを乞う様に墓前に向かっていた俺の背にレーヴァテインの声。一人遊びは飽きましたと言わんばかりの気怠さを含んだそれに現実へと引き戻された意識を向ける。


「うわ、ひっどい顔。元気ないねどうしたの」

「元気でいられるかよ人殺しといて。それにこちとらワケ分からんことだらけで混乱してんだわ」


 気付いたら異世界で、いきなり殺されそうになって、魔法があって、女の子が剣になって、人殺して。

 そんな中でどうして元気でいられようか。


「大体普通に喋ってるけどお前は一体何なんだよ。こんなところで寝てて、剣になって……」

「私はレーヴァテイン。それ以上でも以下でもないよお兄ちゃん」

「って言われてもなぁ。それに何で“お兄ちゃん”なんだ。最初会った瞬間からそう呼んでたけど」

「え、だってそうでしょ? 私はお兄ちゃんの妹なワケで」


 首をこてんと傾げて何を言っているんだと言わんばかりの彼女。こっちが言いたい、お前は何を言っているんだ。


「俺はこの世界に来たばっかりだし、そもそも兄弟はいない。第一お前、俺の名前すら知らないだろ」


 そう言うと、平らな胸をむんと張って自信満々な彼女。

 え、本当に知っているのか。


「さすがに分かるよぉ。クリストファーだよね!」


 一瞬でもこいつを信じた俺が馬鹿だった。


「掠りもしてねぇよ誰だよクリストファー。俺はアキト、剣持アキトだ」

「あははー、ずいぶん寝てたから実は何にも覚えてなくて。自分の名前ぐらい?」


 てへりと舌を出して笑うレーヴァテイン。なんかムカついたのでこめかみをぐりぐりとしてやれば、ひぃんとく。


「で、でもでも! お兄ちゃんがお兄ちゃんで私が妹って確信はあるんだもん! お兄ちゃんだって私の名前すぐに分かったでしょ?!」

「それは……なんつーか頭の中に浮かんだっていうか」

「それと一緒だよ! はい論破!」


 今のやりとり、どこに“論”があったんだ。


「いや、だとしても剣になる妹を持った覚えはない。第一お前人なの、剣なのどっち」

「えーと、人間寄りの……剣……?」

「えぇ……何それ、異世界怖ぁ……」

「もう、細かい事は気にしないの!」

「細かいかなぁ?!」


 はてさて。困った事に隠し事をしているようにも出来るようにも見えないこの人もとい剣。面倒ごとの匂いがぷんぷんする。

 現状これ以上の面倒ごとは避けたいところ。しれっと誤魔化してこの場を離脱しようそうしよう。


「とりあえず助けて? もらった事は感謝する、ありがとう。俺は元の世界に戻る手掛かり探しに行くから、これでお暇させてもらうよ。じゃあな」

「あ、うん。バイバイ」


 早口気味に礼を言って、彼女に背を向け歩き出す。

 とりあえず元いた場所、あのベンチのある所へ戻ってみよう。何か手掛かりがあるといいんだが。


 いざ、異世界から帰る方法を探す旅へと俺は赴くのだった——。


「——じゃないよ?! 妹置いていく気?!」

「だーから妹いねぇんだって俺ぇ!」


 なお誤魔化す事は出来なかった模様。

 

 剣持アキトは、武器を手に入れた。

 同時に妹が出来た。


 ……夢であってくれないかなぁ。切に。

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