水路の設計



「確かに、その流れは止められない。でも、導くことはできる!」


湊は、自らの右腕の「回路」を全開にし、零の「カスケード」の奔流へ飛び込んだ。彼の意識が、零の純粋すぎる「意志」の流れに触れる。


接続が成功した瞬間、湊の肉体は、千の針で刺されたような激痛に襲われた。零のカスケードはあまりにも巨大で、生身の意識が触れるには過剰なエネルギーだった。しかし、痛みはすぐに遠のき、彼の意識は、青い水の底に投げ込まれたような感覚に陥った。

辺り一面、青い光の粒子が満ちる、巨大な虚空。そこは、零の意識の深淵だった。


「ここが、お前の流れか…」


湊は、自らの意識の核を、その濁流の中に、杭のように打ち込んだ。彼は、『彼女の力ではなく、

力の根源を求めた。孤独、悲しみ、そして世界に対する激しい渇望。それらが渦を巻き、この途方もないエネルギーを生み出している。』湊の能力は、零のように巨大なエネルギーを生み出すことではない。彼の「回路」は、この流れの質を操作することに特化している。彼の役割は、暴れる水流に形を与え、正しい方向へ向かわせる水路の設計者(チャンネル・デザイナー)だった。


彼は、零の願いの根源を探る。複雑な破壊衝動に見えたカスケードの奥底には、たった一つの、シンプルな願いが横たわっていた。


それは、「居場所」。誰にも見られず、理解されなかった寂しさから、世界に自分の存在を証明したいという、あまりにも切実で、純粋すぎる願い。


『涙はもう枯れても 震える手の中には』


零の願いの「波長」を掴んだ湊は、彼の回路の最も重要な機能を発動させた。


【チューニング開始:ターゲット・パターン:顕現(アパリション)】

湊は、自らの「回路」を通じて、カスケードの奔流に、「形」を与える情報(データ)を流し込み始めた。それは、破壊ではなく、創造を目的としたコードだった。


「その願いは、間違っていない! ただ、その出し方が、お前を壊すだけだ!」


彼は、零の意識の奥深くに、その言葉を響かせる。零の破壊衝動に飲まれかけていた意識が、一瞬、湊のメッセージに反応した。


『溢れだした力はもう 誰にも止められやしないだろう? 押し流して』


カスケードの勢いは止まらない。しかし、湊が流し込んだ「形」の情報が、奔流をわずかにねじ曲げ始めた。路地のアスファルトを割っていた青い光の筋は、その破壊を止め、上空へ、上空へと向かう上昇気流へと変貌し始めた。


湊は、この一瞬にすべてを賭けた。彼の「回路」が熱で軋み、全身の血管が浮き出る。だが、彼には成功させる確信があった。


「導く! この世界を僕らにしか 創り出せない未来へ変える!」


青い光の竜巻が、渋谷のビルの谷間を縫うように上昇し、ついに夜空の最も高い場所へと噴き上がった。湊の「チューニング」は、成功した。

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