第13話 怪物の一振
三回表。
1アウトランナーなし。
バッターボックスに、夏目孝太郎。
スタンドがざわつく。
「さっきのレーザービームのやつだ……!」
「握力でバット曲がるんじゃ……」
伊藤がフェンス越しに声をかける。
「夏目君、深呼吸して。力みすぎるとミスショットになるわよ」
「いやミスショットってゴルフみたいに言うな」
「あなたのスイング、ゴルフクラブ振るプロ並みに早いもの」
「いや、普通だから……」
村上投手、第一球――
アウトローのスライダー。
夏目は空振り。
(スライダーって結構曲がるのな……回転ちゃんと見ねえと……)
第二球――
インコースのカーブ。
見送り、ボール。
伊藤がベンチで腕を組む。
「変化球には慣れてないわね……まあ当然か」
中村が叫ぶ。
「夏目ぇ!!お前は考えるな!!感じろ!!」
「それが一番危険だろ!!!」
第三球――
真ん中高めのストレート。
その瞬間、夏目の目に世界がスローモーションで映える。
(……これは……いける)
巨体がしなり、バットが空気を裂く。
カァァァァァン!!!
白球は天へ吸い込まれ、
ライトスタンドのそのまま先へ――球場外へ。
駐車場の方で「ボンッ!」という音がした。
「はあああああああ!!??」
「嘘だろ!!?」
「誰だよあいつ打つ方も化け物かよ!!?」
中村は叫ぶ。
「夏目ぇぇぇ!!結婚してくれぇぇぇぇ!!」
「だから告白すんな!!!」
伊藤は、頬をかすかに赤くして静かに言った。
「……すごい。展開も、あなたも、予想以上すぎるわ」
夏目はバットを肩に担ぎながら戻る。
「いや……真っすぐだったから当てたら飛んだわ」
「当てただけのレベルじゃないのよ……」
伊藤はため息をつきながら笑った。
「……ほんと、あなたって“規格外”ね」
こうして夏目の一振りが、試合の空気を完全に変えた。
そして、
ここから本当の“夏目ショー”が始まる――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます