第14話 足で魅せる

夏目の場外ホームランでスコアは2-4

陵西高校の勢いは完全に沈黙した。

ピッチャー山田は球が荒れてるものの、何とか3.4.5回を0に抑え込んでいた。


6回表


1アウトランナーなし

打席:9番・夏目孝太郎


陵西高校エースの村上は夏目と勝負するのを嫌がっていた。

キャッチャーの西田は点差にも余裕がある為勝負してもいいと思っていたが……


「おい村上!しっかりしろ!ストライク――」


「いや西田!絶対無理だ!! あいつなんか変なオーラ出てんだよ!ストライク投げたら死ぬ!!」


そして第一球――

ストライクゾーンから遥か遠くへ大暴投。


球審「ボール!」


観客

「まあ……そうなるよな……」


二球目、三球目、四球目。

すべて「勝負する気ゼロ」のボール。


敬遠成立。


夏目は歩きながら、本当に不思議そうな顔をしていた。


(……なんでストライク投げてこないんだ?)



夏目は首を傾げつつも一塁に立った。


ピッチャー村上がモーションに入った瞬間――


ゴッ!!!


まるで爆発のような地響きとともに、

夏目の身体が水平に“加速”した。


観客がどよめいた。


「え!?早ッ!!?」

「いや、走るんじゃなくて滑って行かなかったか?今!!?」


二塁セーフ。


「いやもう無理……おかしいって……」


村上は顔面蒼白。


次の投球動作。


ゴッッ!!


夏目、さらに瞬間移動のような加速。

三盗成功。


三塁手

「いや、はえーよ!!新幹線かよ!!?」


西田

「村上、あれ無理!!投げようとしたらもう塁にいた!!」


村上

「わあああああ!!(泣)」



一死三塁。


打席には1番打者の山田。


松葉杖を振りながら中村が叫ぶ。


「山田ー!スクイズだ!!!夏目が帰るから!!!」


山田は少しイラッとしながらバントの構えを取る。


(中村先輩、あんなデカい声で言ったらダメでしょうよ……)


夏目は無言でホームを見つめる。


村上、必死に投げる。


山田が上手く当てる。


バシッ……!

弱く転がるゴロ。


夏目、即ダッシュ。


キッチャー西田が叫ぶ

「こっちは諦めろ!ファーストに投げろ!!!!」


一塁審判

「アウト!!」


スコア 4 - 3

一点差。


観客

「全部夏目がやってる!!!」

「敬遠 → 二盗 → 三盗 → スクイズ生還!?

 そんな9番バッターいる!?!?」


夏目は息ひとつ乱れていない。



ベンチに帰ってきた夏目は、

汗もかかずにバットを立てかける。


「なあ中村。

 ボール球って……打ったらダメなのか?」


中村は驚いた顔で夏目を見る。


「は? いや、ダメじゃねぇけど!?

普通に当たんねぇだろ!!!」


夏目は中村が驚いてる意味がわからなかった。

スコアをつけてる伊藤も呆れている。


「“打ってもいい”って質問自体がおかしいのよ……」


「いや、さっきの敬遠球なら全部届いてたんだけどな……」


「届くかどうかの問題じゃねぇ!!

 あれは“打つ球”じゃねぇんだよ!!」


伊藤はそっとメモに書く。


《※夏目:ボール球も打てると思っている》


「やめろそのメモ!!!未来の爆弾だ!!」


中村が必死で止めるもら夏目は少しだけ笑っていた。


(……次は、届きそうだったら飛ばすか)

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