第12話 試合開始
開明高校 対 陵西高校――ついに試合開始。
スタメン発表
1. ピッチャー - 山田亮太
2. キャッチャー - 佐藤智也
3. ファースト - 鈴木正信
4. セカンド - 高橋直樹
5. サード - 田中宏
6. ショート - 渡辺優
7. ライト - 金森翔
8. センター - 加藤信
9. レフト - 夏目孝太郎
「おい誰だあの巨人!?」
「あの背番号10、絶対高校生じゃねえだろ!」
陵西ベンチが騒ぐ。
「夏目くん、落ち着いて。変な声に反応する必要はないわ」
伊藤が横で淡々と言う。
「いや、変じゃないか?“巨人”って言われてるぞ?」
「事実でしょ?」
中村が飛んでくる。
「おっ、お前、伊藤!!おい、なんでベンチにいるんだよ!?」
「あら、キャプテンなのに知らないの?私、島田先生にお願いされて、野球部のマネージャーになったのよ?」
「はぁ!?聞いてねーよ!! どーゆう事ですか!島田先生!!」
「いや……まあ、なぁ?」
野球部顧問の島田は伊藤に弱みを握られていた。
家庭科の教師と付き合っていることが彼女にバレていたのだ。
「中村先輩!伊藤さんにそんな口の利き方しちゃダメっすよ!こんな可愛いマネージャーがいるなんて奇跡なんっすよ?」
部員達は突然入部した可愛いマネージャーにテンションが上がっていた。
「あれ?俺味方0!?俺キャプテンだぞ!?」
既に開明高校野球部は伊藤玲奈のものになっていた。
◆ 一回表 攻撃
一番山田の二塁打、二番佐藤のバント、三番鈴木の犠牲フライで先制。4番の高橋はライトフライに倒れた。
伊藤はスコアブックにカチカチ書き込みながら微笑む。
「ふふ、いい流れね」
「伊藤って、意外と野球好きなのか?」
「別に。ただ“あなたの出る試合”だからよ」
「……っ!!?」
中村「おい夏目!!ニヤニヤしてんじゃねぇ!!」
(してねぇよ!!)
◆ 一回裏 守備
レフトの夏目が守備位置へ向かうと、観客が沸く。
「デケェ!」「密林の王者!!」
「生態系が変わるレベルだろ!」
(誰がゴリラじゃい!)
スタンドを見た中村が松葉杖でベンチの手すりを叩く。
「夏目ぇぇ!もうちょい動け!なんかアピールしろ!」
夏目はしぶしぶ手を振る。
「人気ね、夏目君」
伊藤がベンチから手をひらひら。
2年生ピッチャー山田の立ち上がりは悪くない。
一番を内野ゴロ、二番をセンターフライ、三番には自慢のスライダーで三振を奪った。
夏目は欠伸しながら立っていただけだった。
「いいピッチングだったわね」
伊藤が言う。
「そうだな、全然飛んでこねぇし。暇なんだよな」
◆ 二回表 攻撃
開明高校の5.6.7番は仲良く三者三振。
5番から8番までは高校から野球を始めた者ばかりで、人生初の試合にガチガチに緊張していた。
◆ 二回裏 守備
状況は急変。
山田の球が荒れ始め、4番、5番に四球、6番を討ち取ったと思った打球をサードがエラー。
満塁から押し出しで同点、8番をショートゴロに打ち取るもその後に失点、失点、失点。
スコアは一気に1-4。
グラウンドの空気が重く沈む。
山田がうつむいたまま呟く。
「……すみません」
伊藤が帽子のつばを軽く持ち上げ、優しく言う。
「落ち込んでる時間はないわよ。次を抑えればいいの」
夏目はそれを聞いて、少し驚いた。
(伊藤……意外と熱いんだな)
そして――
一死三塁。
フラフラと舞い上がる打球が、レフトへ。
「夏目ぇ!!行ったぞー!!」
中村が叫ぶ。
夏目はゆっくり一歩後ろに下がり、淡々とグラブを構える。
(まだ1アウトだから、ランナーが3塁からタッチアップでホームに走るんだよな……)
バシッ!
捕球。
「夏目ー!ないキャッチー!」
三塁ランナーがスタート。
夏目は一歩踏み出し――腕を振り抜いた。
シュッ。
空気が裂けた。
客席まで届く風圧。
ボールは地面すれすれを一直線に走り、
キャッチャー佐藤のミットがバッッッン!!!!
と破裂音を立てた。
ランナー唖然。
キャッチャー佐藤、優しくタッチ。
「アウトォォォ!!」
球場、静寂。そして爆発した。
「レーザービーム!!!」
「なんだよあれ!?ワンバンじゃねえのか!?」
「レフトから直線で届くのヤバすぎだろ!!!」
「野球ゲームのバグ技じゃねえか!!」
伊藤も口元に手を当て、ぽつり。
「……ほんとに投げたわね。化け物じみてるわ」
中村が叫ぶ。
「夏目ぇぇぇぇ!!!!!!好き!!!!!!」
「告白すんな!!!」
こうして、夏目は“未知の新人”から
一気に“伝説級のレフト”へと昇格してしまった――。
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