第7話「ランニング革命」と、中村の勧誘地獄 第2幕**


翌朝。


教室に入った瞬間、空気がおかしい。

ざわ……ざわ……と微妙なざわつきが広がっている。


視線の先には――


「おはよう、夏目くん」


伊藤が、当たり前みたいに手を振った。


教室が爆発する。


「えっ伊藤さん!?」

「昨日あいつと帰ってたよな!?」

「なんで……なんで夏目なんだ……」

「え、付き合ってんの……?」


夏目は思わず言う。


「……なんで手振るんだよ」


「挨拶よ?」


「もっと静かにできねぇのか」


「じゃあ今度からウインクだけにするわ」


「やめろ」


教室の温度がさらに上がる。


(……だめだ。こいつと関わると毎回こうなる)



放課後、夏目が校舎裏へ行くと――

昨日と同じ位置に、中村が仁王立ちしていた。


「……来たな夏目ぇぇ……」


「お前、昨日からそこにいるだろ」


「お前を待ち続けて死にかけたよ!!!」


「何時間待ったんだよ」


「わからん!!!!」


夏目は顔をしかめる。


「で、何の用だよ」


中村は拳を握りしめ、叫んだ。


「今日こそ俺とキャッチボールだぁぁぁ!!

お前はまだ野球を諦めていないッ!!そう信じてる!!」


「いや、走るんだけど」


「走るなあああ!!俺と来い!!」


夏目は淡々と言う。


「……伊藤が来る」


「ああああああああーーーーーー!!!!」


その時――


「夏目くん、準備できたわ」


伊藤が来た。


中村は泣き崩れた。


「なんでだよ……なんで毎回タイミング完璧なんだよ……

ていうかお前らセット行動かよ……」



◆ ランニング2日目


2人が走り始める。


昨日より自然に会話が弾む。


「夏目くん、どうしてそんなに鍛えてるの?」


「なんとなくだよ」


「なんとなく続くって、一番すごい才能よ」


夏目は妙に胸がざわついた。


(……なんでこんなこと言うんだ)


「伊藤はなんで走るんだ?」


「痩せたいからよ」


「痩せる必要ねぇだろ」


「そう思う?……じゃあ、続けるわね」


夏目は一瞬言葉を失った。


(なんなんだこの女……)



◆ 中村の嘆き


ランニングを見送った中村は校舎裏に崩れ落ちた。


「……伊藤……最強の天敵だ……

ランニングに勝てる説得材料を……俺は持っていない……」


涙を流しながら呟く。


「でも……諦めねぇ……!

俺は1000回断られても誘い続ける!!

夏目ぇぇ……絶対連れてくからな……!!」



◆ 夜:夏目の“ポイント振り分け”


走り終え、筋トレをして風呂に入り、寝転ぶと――

例のウィンドウが浮かぶ。


――――――

【デイリークエスト達成】

・筋トレ:+5pt

・ランニング:+5pt

計10pt

――――――


(今日は走ったし……走力に振っとくか)


夏目は迷わずタップした。



夏目孝太郎 15歳

球速80km

コントロールE

スタミナB

変化球-


ミート: E

パワー: B

走力: A

肩力: E

守備: E

捕球: E



夏目は満足げに画面を閉じた。


(……使ってる能力だけ上げてるせいで偏ってるな……まあ、守備とか使わねえしいいか)


ウィンドウが消える。


まぶたが落ちる直前――

伊藤が笑いながら走る姿が、ふっと脳裏に浮かんだ。

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