第40話

 自宅から持参したハンディタイプのかき氷機で、買って来た冷凍フルーツを削る。


 ゼリーやヨーグルトも買って来たけれど、それは一人の時に食べて貰う用。

 前島課長の息子さん、たっくんが風邪を引いた時はこれ(フローズンフルーツ)が一番効く。

 冷たくて、喉越しがよくて、ビタミンも摂れて。


「熱があって、喉が痛い時はこういうのがいいと思って」


 彼の手に器とスプーンを持たせ、肩にカーディガンを掛ける。


「旨っ……何これ」

「市販の冷凍フルーツをかき氷機で削っただけだよ」

「……マジ、天才」

「課長の息子さんが寝込んだ時、これが好物なんだよね」

「……へぇ」


 マンゴーとメロンを削っただけだけど、こういうひと手間が病んでる時はありがたいもの。


「冷蔵庫にゼリーやヨーグルトとか買って来てある」

「……ん」

「それと、茶碗蒸しとスープも作っておいたから、起きれるようになったら温めて食べて」

「え?」

「飲み物はここに何本か置いておくね」

「……至れり尽くせりだな」


 申し訳なさそうに眉根を下げる楢崎。

 普段見せない弱気な顔に、思わずキュンとしてしまった。

 ……まだ私にも、こういった感情が残ってたんだ。


「必要な時に手を貸す約束でしょ?」

「……そんなのもあったな」

「こういう時くらい頼ってよ」

「……フッ」


 私たちの間には、見えない壁がある。

 けれど、お互いに納得しているから、何ら問題はない。


「こういう弱ってる楢崎、プレミアムものだからね~。『彼女』の特権、行使させて貰った♪ ウフフッ」

「何だよ、それ……」


 視線を逸らした彼。

 熱で赤いのか、照れて赤いのか。

 ほんの少し頬が赤らんでいる気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る